エロゲー 夏ノ雨 翠ss『アサリ前の日々』

夏ノ雨 翠ss『アサリ前の日々』
説明:放課後の翠ちゃんと宗介。
もっぱらムール貝のはなし。



「おお居た。翠、こっち掃除終わった。帰るぞ!」

「…………」

「早くしろよっ、時間ねーんだから。置いてくぞ」

「…………」

「おい翠。みーどーり?一志先行ってるってよ。早く河原行こーぜ」

「ぷい」

「みーどーりーー!こら聞こえてんだろお前。こっち見ろ。何ぼけっと座ってんだよ」

「……あ、リカちんだ。おーい」

「はぁ?」

「リカちん!今日一緒に帰ろっ」

「…………」

「えー、部活なの?どうしようかな、待ってていい?……ふえ?あー、そ、そこの人?そこの人はいいの別に。気にしない気にしない」

「そこの人…………」

「駄目?あぁん、待って、待ってよリカちん。あたしも行くっ」

「……お前が待て」

「うぇ!?……ちょっと。あたしリカちん追いかけないといけないんだけど」

「そこの人って俺か?俺だよな」

「さぁ……そう思うんならそうなんじゃないの……ほら離して、人の襟掴まないで苦しいから」

「ああ、スマン」

「ふう、まったく……リカちーん!ちょっと待っぎぎぎぎぐるぢいー」

「だからお前が待てっての」

「ふぬぬぬ!」

「あーこら、服伸びるから動くな」

「はぁ、はぁ…………」

「何やってんだお前は」

「はぁっ……離しな……ふぬぬぬ!」

「……あ、逃げんなっ」

「ひぎぃ!」



「で?」

「いや、あたしが聞きたいんだけど。桜井、あたしに言うことないの」

「あ、まあ……ちょっとやり過ぎたかもしれない……」

「ちょっと?」

「ちょっと大幅に……やりすぎたかもしれない……」

「ごめんなさいは?」

「スマン」

「え、なに、スマンって言った?あたしに!人残ってる教室で!握りつぶされたカエルみたいな声出させておいて!」

「……翠、ごめん」

「よろしい」

「で?」

「あー、全然反省してない」

「してる」

「反省の色は何色かなぁー?気になるなあ。白、バニラアイスの白かもしれない」

「もう勘弁してくれ……ていうか財布返せ。悪かったから」

「うむ。分かったならいいでしょう」

「お、メールだ」

「誰から?」

「一志……やべ。忘れてた」

「どしたの」

「あいつ先に河原行ってたんだった。遅い、日が暮れた、帰る。だって」

「えー!……いや、まあ確かに今からサッカーは無理かなぁ」

「そうか?まだ明るいだろ」

「あのね桜井、これは残照。ほーら、お日様がもう地平線に隠れてますねー。宗介ちゃん見えるかなぁーさあ、お日様にバイバイってしま……ストップ。怒らない。ジョークだから、アメリカンジョーク」

「どこが面白いか説明してみるか?」

「ごめん」

「でもどうすっかな、このまま行っても一志いないのか。走れば追いつくんじゃねーか?」

「やだよぉ……けど先にメールしとけばよかったね。あたし達も今向かってるって……あれ、返信しないの?」

「別に……まあ確かにもう日も落ちてるし。それに帰る言ってるしな」

「そうだけど。でも橋のとこで待っててくれるかも」

「待たせてどうすんだよ?じゃあなでオシマイだろ」

「だからそのバイバイが大事なんじゃないの?」

「そうか……?それだけのために待たされるの鬱陶しくないか」

「あれ、そっかな……そういうもの?……まあ、桜井がいいならそれでいいんだけど」

「いーんだよ別に」

「ふぅん……て、待った待った!なんでそこでケータイ鞄にしまうかな」

「一志は放っとけって話じゃねーの?」

「いやいや、それにしても遅れてごめんとか、また明日とか返信入れようよ」

「明日言えばいいだろ。何先帰ってんだよって」

「桜井ってケンカ売るの上手いよね……」

「一志なんかに気つかっても無駄なんだよ」

「これはこれで仲良しってことなのかな」

「それにメール打つの面倒くせーし」

「ふふ、そーなんだ」

「なんだよ、ニヤニヤすんなよ」

「もっと早く教えてくれれば良かったのに。桜井ってさ、いっつもあたしのメールに返信しないじゃん。あたしで始まってあたしで終わるじゃん。なんでかなーって思ってたんだけど会って話すからいいやってことだったんだね」

「いや、それはお前のメールに中身がないだけ」

「……発言にデリカシーが欠如してる」

「うん?」

「その物言いはどうかと思います!あたしはちゃんと丹精込めてメール打ってるよ。一回打って、二度見直してから送信してるもん」

「だから文がどうのじゃなくて、中身がねーの。翠のメールって言ったらほら、新入荷の菓子が甘いとか理香子がバイト中どうしたとかそんなんばっかじゃねーか」

「心外だなぁ……」

「あと翠のメールは返信早すぎて恐い。やっと打ち終わって一息つこうと思ったらすぐ返信来るから面倒になんだよ」

「心外だ……」

「あぁ、こないだの……メール一分しりとり?あれはアツかったから許す」

「いつの間にか許される側になっている……」

「言いたいことがあるならこうして話しゃあいいのにわざわざメールすんのがよく分かんないんだよな」

「それはほら、なんか家に帰っても一緒にいるみたいっていうか……桜井今何してるのかなぁって想像しながらメール打つんだよ。それに返信来たらちょっと嬉しくならない?」

「返信が嬉しいのは分かるけどな……一往復したらもう面倒臭くなる」

「桜井に彼女出来ない理由が分かった気がする」

「なんだよ」

「この甲斐性なし!」

「翠に言われてもなぁ……」

「あ、桜井。橋見えてきたよ。武田君は……やっぱりいなさそう」

「あの欄干寄りかかって黄昏てる感じのは違う?」

「あれお爺ちゃんだよ?黄昏てる訳じゃなくて休憩してるんじゃない」

「お前目いいよな」

「でも武田君帰っちゃったか……入れ違いになっちゃったね」

「そういや翠、帰りの電車一緒だしな。だったら待たせてても良かったのか……ちょっと待ってろ、電話する。まだ駅ついてないだろうし」

「ううん、いいや。武田君待たせるのも悪いから」

「さっきと言ってる事違うぞ」

「明日、なに人のこと置いて帰ってんだーっ!て言えば良いんでしょ?」

「一志をイラっとさせたかったらな」

「武田君はそんなことで怒んないよ。桜井と違って……あれ、メール結構無愛想だったよね?ええと……寒い、帰る、寝る!だっけ。やっぱり怒ってるのかも」

「あいつのメールはいつもそんなんだ」

「そうなの?ならいいんだけど……そもそもさあ、こんな遅くなったのも桜井が来なかったからだよね。あたし教室で待ってたのに」

「遅刻の罰に居残り掃除ってこの古臭い発想の担任が悪い」

「遅刻しなきゃいいんじゃないの」

「低血圧なんだよ……」

「リカちん起こしてくれないの?あ、ふふっ、愛想尽かされたんだ」

「何か起こしてくれる日とくれない日があんだよな……一応テーブルに朝飯と先行く!とか書置きは残されてんだけど」

「あれ、愛がある……?」

「愛はない」

「あるよ!毎日朝ごはん作ってくれるなんて愛以外の何者でもないよ。あたしだってリカちんに朝ごはん作ってもらいたいやい!チクショウ、桜井のくせに……」

「理香子と愛の話はやめよう。一志と入れ違いになった話をしよう」

「えー、何で?」

「お前が嫉妬するから」

「嫉妬するようなことしてるんだ」

「してない。してないのに翠が面白半分でそっちに誘導するんじゃねーか。だから言ってんだよ」

「しょうがないなあ全く……照れちゃって」

「照れてない」

「そうだ、それでなんでこんなに遅くなっちゃったかって話だよ。それで桜井が罰掃除なんか仰せつかるからいけないって話。桜井のアホ」

「お前だって委員会あるから先に終わったら待っててーとかぬかした癖に、そーだ!翠お前人のことなに無視してんだよ」

「委員会案外すんなり終わっちゃったんだよね」

「それはいんだよ、その後だ。お前俺のこと無視してただろ。しかもスゲー下手糞に」

「そ……そうだったかなぁ?」

「なにとぼけてんだよ。いいから、吹けない口笛吹かなくていい」

「見て、風がキレイ……」

「黙れ」

「…………」

「…………」

「……じゃあ言わせてもらうけど」

「なんだよ」

「桜井さぁ、最近ちょっと付き合う友達が下品じゃない?」

「お前とか?……すまん」

「あのね、オトコノコですから。桜井もオトコノコだって分かってるからあたしも多少のことには目を瞑りましょう。なるほど、エッチなことに興味の湧くお年頃でしょう。女の子のことも気になるでしょう。それはいいよ、エッチなことならまだいいんだけどそれ通り過ぎて下品なのはどうかなってあたし思うの」

「下品ねぇ……」

「あたし桜井が堕ちていく姿見たくないよ」

「まあ……なんとなく、お前の言わんとしているところは分かった」

「分かった?」

「あれだろ、放課後の……?」

「!!」

「ああ……あれはまあ、なぁ……」

「そういうビデオの女優さんがどうとか指の……その、テクニックがどうとかいう話をする分にはまだいいんだよ。まあ、あたしはそんな話でニヤニヤしてる桜井を見て心底ガッカリしたけど」

「よくないんじゃねーか」

「そこはね、理解はできないけど認めてはあげようと思ってたの。男の子が五人も六人も集まって猥談に花を咲かせる姿は正直見苦しかったけど」

「…………」

「それから桜井が掃除に抜けて、それ見てほっとしたところであたしも委員会に呼ばれて……すんなり終わっちゃったから桜井手伝いに行ってあげようかななんて思いながら教室に戻ったんだよ。そしたらまだ男の子が集まって何か話しててさあ」

「あいつらまだやってたんだ」

「そしたらだよ。なんか貝の、ムール貝の身を開いたところがじょ……じょ……女性器にそっくりとかそれはいささか下品すぎやしませんかねえ!!」

「うわあ……」

「どうなの?ねえ貝の写真ダウンロードしてここが尿道とか指差して笑ってるのはどうなんですかねえ!!」

「……言葉もない」

「男の子って馬鹿だなあとか、ちょっとそんな言葉ではカバーしきれないと思うんだけど」

「そうなあ……」

「あたしさあ、桜井があたしのいないところではこんなこと話してるのかと思うともう情けないやら悔しいやら……」

「分かった。もういい。もういいから……」

「分かった?なにが分かったの」

「だから、翠が腹を立てるのも無理はないと」

「……無理はない?」

「いや、もうちょっと……当然?」

「そう、あたしは当然桜井にイラっとしました。それから桜井の行く末が心配になりました。何か申し開きは?」

「……ありません」

「そう。そんなの聞きたくないもん。そうじゃなくてこれからどうするかを聞きたいの」

「ちょっと待った。ひとつだけいいか。俺はその、ムール貝の話はしてないぞ」

「……ホントに?」

「そうだよ。そもそも居なかっただろ」

「今日はそうだけど、いつもしてるんでしょ」

「してない。この聖十字に誓ってしてない」

「そういうの言っていいのは信者の人だけなの。それからそれ十字架じゃないから。ウルトラマンのポーズだから」

「ウルトラ星に誓ってしていない」

「あーまた思い出した!桜井の友達、ウルトラマンのコスモスがどーたら言って笑ってた!これも何かやらしい話なんだ」

ウルトラマンの話はやめよう」

「いや、それだとウルトラマン自体が下品みたいじゃん」

「……とにかく。俺はムール貝については一切関知してないからな」

「ふうん……」

「まあ、ヘンな話聞かせたのは悪かったよ」

「そう……それなら少しは情状酌量の余地アリとしてあげようかな。改悛の情もあるようだし」

「それはそうと」

「うん?」

「ウチ着いたけど翠どうすんだ?寄ってくか」

「そうだね、お茶飲んでこうかな」

「自分で入れろよ……っと、ただい、あれ?誰の靴だ」

「リカちんかな?」

「ソウくん、おかえりなさい」

「お、ひな姉来てたんだ。ただいま」

「夏子おばさんがね、市販じゃないカレーが食べたいってメールくれたの。お邪魔してます。あ、翠ちゃんいらっしゃい」

「ひな先輩!あたしもカレー食べてっていいですかっ!」

「ふふ、どうぞ。沢山作ったから大丈夫だよ」

「ああイイ匂いが……もう出来てるんですか?」

「今煮込みが丁度一区切りついて、ソウくん帰ってくるまでもうちょっと馴染ませてみようかなって考えてたところなの。だから食べようと思えば食べられるよ」

「うああん……でも、やっぱり最高の状態で食べたい!からちょぴっと舐めるだけにしますっ!手洗ってきます!」

「あ、そうだ」

「何ですか?」

「あっ、ごめんね翠ちゃん。ソウくんになの」

「どうした?」

「あのね、前にソウくんが食べたいって言ってた貝あるでしょ?ムール貝。スーパー探してみたんだけど置いてなくって、魚屋さんで聞いたら仕入れてくれるって言うからお願いしてたのね。それで今日入りましたってお電話貰って、折角だからカレーをシーフードカレーにしてみたの」

「うお……」

「でもよく考えたらムール貝を単品で食べたいってことだったのかな?一応、少し余らせてあるから網で焼いてみよっか」

「おお……」

「それにしてもムール貝って変な形してるのね。わたし今日初めて見たんだけどびっくりしちゃった。グロテスクって言うか、けどどこかで見覚えがあるような形なんだけど……」

「…………」

「このっ……」

「翠ちゃん?」

「さーくーらーいーっ!!!!」


暗転