エロゲー 夏ノ雨 ひなこss『台本』

夏ノ雨 ひなこss『台本』
説明
理香子とひなこさんのテンプレ的日常風景



シーン1
○店内客席

街路に人の流れる様子。

徐々にズームアウト。

窓、壁、座席で談笑する男女(後姿)

それらの大向こうに雑踏、先はガラス窓ごしの光景と分かる。

画面左にパン、カップルが椅子を引いて立ちあがるところ。

興味を失ったようにゆっくり元に戻る。

再びガラス窓の方へ。

…………

手持ち無沙汰に外をみつめる宗介。

二人掛けの席に手をついて座っている。

「お客様、お待たせいたしました。こちら、本日のランチセットになります」

「おう、サンキュ」

カニチャーハン、それからスープとサラダですね」

「はあー、腹減った」

「ドーナツの方は後ほどお持ちいたします。お連れ様の分もこちらお置きしてよろしかったでしょうか」

「ん」

「…………お客様、ひな先輩は?」

「トイレ」

「そっか、ごめんごめん」

画面、テーブルで湯気を立てているチャーハン二つから離れ店員へ。

ユニフォーム姿をあおっていくと、えへへと笑っている顔。

「それから桜井、これ、サービスね」

「何これ」

「試作品。ふふ、今回のは恐いぞ」

「恐いって何だよ」

「誰も味見してないからね」

「なんのための試作品だ……」

「ほら、中に赤いの見えるでしょ」

「おう。イチゴじゃないのか」

「おいしそうでしょ」

「イチゴじゃないのか」

「ううん、実はね、それ……あたしもなんだか分からないの」

「…………」

「…………」

「……これ試作品って言わないだろ。悪ふざけだ」

「何を、ウチの店長が聞いたら怒るよ。ちゃんと考えと生地を練りに練って作ったんだから」

「なら自分で食えよ……」

「ソウくん、翠ちゃん」

「あっ、ひな先輩」

「翠ちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「それからソウくん、お待たせ。先、食べてくれててよかったのに」

「いや、ちょうど今翠が持ってきたとこだ。湯気出てるだろ」

「ひな先輩、わたくしめが懐で温めてござる」

「そうなの?それならよかった」

「いいからほら座って、早く食おう。腹減ったよ」

「うん。あ、今日の、カニチャーハンなんだ」

「書いてあったじゃん」

「見てなかったの。ちょっとよそ事考えてて。ソウくんと一緒でいいかな、って頼んだから」

「ひな姉チャーハン嫌いだっけ?」

「ううん、好きだよ。いい匂い。わたしもお腹空いてきちゃった」

「ほら、スプーン」

「えへ、ソウくんありがとう。うん。それじゃ翠ちゃん、いただきます」

「はい、どうぞ召し上がってください」

「いただき」

「……ってちよぉっと待った!ひな先輩、桜井。ごめん、ちょっと待ってて」

「はあ?」

「ごめん、ちょっとだけだからっ」

翠、すぐだからね、と言い残しながら走って奥に消える。

宗介、追った視線を戻し首をかしげる

「なんだあいつ?」

「どうかしたのかな」

「さあ……あ、そうだ。ひな姉、これ見てみ」

「ドーナツ?」

「うん。セットのやつじゃなくて、翠がくれたんだけど。試作品だって」

「へえ……かわいい色だね。イチゴ味かな」

「是非ひな姉に食べてほしいって言ってたぞ」

「ソウくん、食べる?」

「いらない!」

「?」

「うわ……だってほら、こっちから見てみ。なんか黄色いのと青いの滲んできてるだろ」

「ほんとだ」

「信号じゃねーんだからさあ」

「ふふっ」

「ていうかもういいや、食べちゃおう。チャーハン」

「ソウくん。でも翠ちゃん待っててって」

「ひな姉、飯が一番うまいのはいつだ」

「あ、……作りたての三十秒」

「いつも自分で言ってるだろ」

「そっか」

「こうしているうちに美味い瞬間はどんどん逃げて行ってるんだぞ。据え膳食わぬは女の恥って」

「うん。そうだよね。ご飯は温かいうちに食べないと」

「よし、」

宗介、ひなこ、手を合わせて目の前の料理に取りかかる。

ひなこ、スプーンにカニとご飯と野菜とをバランスよく取って口に運ぶ。

宗介、スプーンに山と盛って掻き込む。



シーン2
○店内客席

ふうとひと息ついて、同時にお冷を手に取る二人。

そこにウエイトレス姿の理香子、トントンと近寄っていく。

「宗介、なによ二人して。デート?」

「はあ?ひな姉だぞ」

「ソウくん……それってどういう意味かな」

「なんでもない」

「あっ、そうだ。理香子ちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「それでソウくん。さっきのは、どういう意味かな」

「だから特に意味はないんだって……」

宗介、身を乗り出してきたひなこの額にデコピンする。

「あうっ」

ひなこ、額を押さえる。

隙間からのぞく顔は嬉しそうに笑っている。

「やっぱりデートなんじゃない」

「うふ、そうかな、そう見える?」

「あーもうほら、理香子。サボってないで仕事しろよ」

「わかってるわようるさいわね……」

「お前は店員の鏡だよ」

「失礼致しました。お客様、こちらランチセットのドーナツと、ドリンクになります」

「どうも」

「ご注文の品以上でお揃いになりましたでしょうか。追加注文等ございましたらお近くの店員まで声をお掛けください、それではごゆっくりどうぞで何か文句あるわけ」

「最後がいらないな」

宗介、皿に半分ほど残ったチャーハンをかっこむ。

「ソウくん、そんなに急いで食べたら喉に詰まっちゃうよ」

「あいおうう」

「もう……ふふっ」

「ねえ、宗介。どう?おいしい」

「うん?」

「それよ、あなたが今がっついてるチャーハン」

「まあ、いつもどおり」

「そう。でも、いつもよりちょっとおいしかったりするんじゃないの」

理香子、そわそわと視線を散らす。

テーブルからテーブルへ、そして定期的に真ん前のチャーハンへ。

宗介、それをみて思案顔。

「言われてみれば、そうかな」

「あのね、これ私が作ったの」

「おいしいよ」

「解凍して炒めるだけだから誰が作っても大して変わらないけど」

「おいしい」

「そう」



シーン3
○店内客席(アイドルタイム)

テーブル席に宗介、翠、ひなこが座り、談笑している。

そこに再びカツカツと近寄る理香子。

「あなたたち、いつまで居るのよ」

「うん?あ、もう三時過ぎてるのか」

「あら」

「いーじゃん。ね、リカちんも一緒にお喋りしようよ」

「あなたは仕事しなさい」

「んーと、じゃそろそろ行くか」

「えー、桜井もうちょっと居ようよ。アイドルタイムなんだよ。キラキラ輝いてる時間なんだよう」

宗介、ひなこ席を立つ。

椅子を引くガラガラいう音。

それを聞いて、しぶしぶ翠も仕事に戻る。

「理香子ちゃん、ごちそうさま」

「ええ」

「ごちそーさん」

「そうだっ。あのね、理香子ちゃん」

「はい?」

「チャーハンなんだけど、炒めるときにごま油を一気に使うんじゃなくてね、
最初と最後の二回に分けて入れると風味がしっかり出てもっとよくなると思うの」

「………」

「参考になったらいいんだけれど」

「それは…………ありがとうございます」

「うふふ、どういたしまして」

大写しでひなこの顔。一点の曇りもない笑顔。


暗転