エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談2』

夏ノ雨 翠ss『雑談2』
説明
負けず嫌いの翠ちゃん



「あのさ、桜井」

「うん?」

「リカちんの趣味って何なの」

「さあ……」

「好きな芸能人は?」

「本人に訊いてくれ」

「好きな食べ物は?休日の過ごし方は?」

「知らん」

「えっとそれから、それから……」

「なんだ、釣書でも作る気か」

「まさか。親戚のおばちゃんじゃあるまいし」

「そりゃよかった」

「いくらあたしでもリカちんつかまえて結婚の心配はしないよ。放っておいても男が群がってきそうだもん」

「まあなぁ」

「なんて言うんだっけ。飛んで火にいる……」

「嫌な例えだ……」

「それじゃあ、及ばぬ鯉の滝登り」
「理香子はお前の中でどういう扱いをされてるんだ」

「ううん……かぐや姫?」

「あいつはもっと、普通の奴だぞ」

「そう、そうなんだよ。リカちんに幻想を抱いたままではいけない!」

「立ちあがるな、座ってくれ」

「ここはね、基本に立ち帰るというか。お互いを知るところから始めよう、って」

「へえ」

「それでリカちんについて情報収集してるわけ」

「昔から言うもんな。敵を知り己を知れば百戦危うからず」

「敵じゃないけどね」

「校舎裏」

「タイマンも張りません」

「ずずず」

「聞いてる?断絶された国交を回復したいの」

「はあ」

「リカちんと懇ろな関係になりたい」

「そろそろ諦めたらどうだ」

「諦めません!あたしのこと、翠って呼んでくれるその日まで」

「目標低いな」

「まずは卑近なところからね。最終的な目標はもう、凄いから。裸足で逃げ出すレベル」

「誰が」

「ううんと……ビーチボーイズ?」

「どこの人喰いザメだお前は」

「ごめん。適当言いました」

「歪ませるのか、人生の春を謳歌している観光客の表情を恐怖に歪ませるのか」

「なんでそんなに食いつくのよぉ……」

「サメだけに」

「…………」

「…………」

「桜井、お茶おかわり」

「麦茶は別に手酌でいいだろ……」

「まあほら気分的に。あたし、お客さん。桜井ホスト」

「お客ってなあ、もう来てすぐ冷凍庫からアイス取り出す奴に言われても」

「ほら、ホスピタリティを持って、もてなして!」

「いらっしぁやせー」

「二点」

「何点満点?」

「ううん……フィギュアスケート方式」

「よく分からん」

「三回転トーループで着地ミスした時くらいの点」

「辛いな」

「だって全然やる気感じられないし。女将を呼べ、レベル」

「女将いるけど。呼んでいいのか」

「うああ……駄目駄目」

「ウチの女将にかかれば翠、お前なんかクソガキAだ。ちなみに俺もだけど」

「夏子さんは今お仕事中?」

「さあ……どうだろ。寝てるんじゃないか」

「あたしさ、桜井の彼女と間違われたままなんだよね」

「そうだっけ?」

「そうだよ。後ろからガッて拘束されて、ははぁんこのニオイ、女だなって。見れば分かるでしょうに」

「覚えてないなぁ」

「ちょっと傷ついたよ、見れば分かるでしょうに……」

「おそらく目が開いてなかったんだな。目やにで封されてたか、単に開けるの面倒だったか」

「夏子さんって小説家なんだよね」

「こないだ、あたしゃ現代の錬金術師だ、って言ってた」

「その心は?」

「ううん……多分暑さで」

「いいなあ、毎日が夏休みじゃん」

「飯食うときだけ動きだす。ガンアクションのゾンビみたいだ……」

「ははぁ、それで桜井はいつも対応に腐心していると」

「…………」

「こほん」

「…………」

「……氷、なくなっちゃった」

「……そうな」

「……おせんべも」

「ずずず」

「……リカちん、帰ってこないね」

「……寄り道してるんじゃないか、理香子猫っぽいし」

「家出かも」

「いやいや、子供じゃあるまいし」

「でもリカちん……猫ってなんの脈絡もなくプチ家出するじゃない」

「さあ……そうなのか」

「そうだよ。それで数日後、平気な顔して帰ってくるの。こっちは車に撥ねられたんじゃなかろうかって夜も眠れなかったのに」

「ふうん」

「こっちの気も知らないで。あたしがどれだけ猫缶選びに心を砕いていることか。お口に合いますようにって」

「翠って猫飼ってたっけ」

「ううん、野良ちゃん。いつ見つけてもいいように携帯してるの」

「マメだな」

「ああ、都合のいい女……いいのあなたのためならば」

「猫の話だよな」

「そうだよ。それでリカちんは猫に似てるよねって話」

「はあ」

「だからね、リカちんの好きなものは?リカちんにとっての猫缶は何なのかね」

「何なんだろうな」

「桜井は知ってるでしょ。同棲同衾なんだし」

「同衾は……違う」

「なにその間」

「なんでもない。後同棲じゃない、同居だ。全部違うじゃねーか」

「ホントだ」

「フカシこくなよ」

「桜井、なんか不良っぽいよそれ」

「そうか?フカシこくなよ顎ガタガタいわしたるぞ」

「すごい不良っぽい!でも完全に小物のセリフ」

「うるせえなミンチにすんぞ」

「語尾にぞって付ければいいのかな」

「いや、そういう問題じゃないだろ」

「じゃ、語頭にぞ?」

「もっと違うと思う」

「ううん……でもさ、やっぱりこういう言葉遣いって」

「うん?」

「ぞっとしないぞ」


暗転