エロゲー 夏ノ雨 翠ss『シュミレーション』
夏ノ雨 翠ss『シュミレーション』
説明:もしもシリーズ。そのいち。
もしも翠ちゃんがサッカーオタクだったら。
「リカちん、リカちん!……明日ってお暇?」
「何で?」
「どうかな、暇?暇じゃない?」
「先に理由を言いなさい。そうしたら答えてあげる」
「えー」
「何よその反応」
「だって聞いたらリカちん暇じゃないって言うもん」
「分からないわよ」
「あ、やっぱ暇なんだね!明日一緒に遊びに行こっ」
「……どこに」
「それは着いてからの……おたのしみ?」
「明日は用事あるの」
「あー、あー!分かった、言うからっ。……あのね。一緒にサッカー観に行かない?」
「嫌よ」
「うあーん、やっぱり」
「貴重な休日よ。そんな愚行を犯す訳無いでしょう」
「そう言わないで付き合ってよぉ。行ってみたらきっと”ああ、コレまで私は人生の何割を損していたんだろう……”って思うからっ」
「私、明日ベッドから一歩も出ないって決めてるから」
「やっぱり暇なんじゃんかぁ」
「忙しいわよ。布団に包まってミズネズミの進化の歴史に想いを馳せるの。ネズミのくせに激流に飛び込んで、ヒゲの感覚だけを頼りに魚を獲るのよ?水に体温が奪われるから起きてる間中ずっと食べ続けなきゃいけないの。でも獲物を探しに川に潜ると体温を奪われるの……。茨の道を歩いているのね、行き止まりに向かって。陸で草でもカジっていればいいものを不思議じゃない。そこには霊妙な大自然の哲理が眠っているに違いないわ」
「いじわる。リカちん目が笑ってるもん」
「ネズミに笑いかけてるの」
「ねぇ桜井。桜井も黙ってないで手伝ってよぉ」
「……理香子来ないのか」
「何で球蹴り遊びなんか観に行かなくちゃならないのよ」
「だそうだ」
「それで全力を尽くしたって言うの?」
「……理香子、暇なんだろ。折角だし一緒にどうだ」
「嫌よ」
「桜井の馬鹿!リカちんは忙しいんだよ。お忙しいところ恐縮ですが……から攻めてかないと城は落とせないよ」
「聞こえてるんだけど」
「リカちん、お忙しいところ恐縮なんだけど……」
「丁重にお断りします」
「お得なんだよ。レディース1000円デーなんだよっ」
「時間を浪費させてその上お金まで取ろうっていうの?酷い商売ね……」
「それ前提がおかしいんだよぉ……」
「……あら、宗介が試合するんじゃないの?なんでお金掛かるのよ」
「興味出てきた?教えてあげる!それには深い、深ぁい理由がね……」
「どうでもいいわ。私には関係ないから」
「明日は部活休みだぞ。俺の試合じゃなくて、Jリーグ観に行くんだ」
「……ふうん。二人、デートなんだ」
「一志が姪っ子連れてくるって言うから、お前入れて五人になると団体割効くんだよ。200円安くなる」
「私が800円払って宗介達4人が200円ずつ安くなるんじゃ、差し引きゼロじゃない。全然お得じゃないわよ」
「面倒臭い奴だな……」
「しかも宗介と武田君はレディーじゃないでしょう。正規の料金が幾らか知らないけどお金の無駄よ、広報戦略に踊らされてるわ。テレビで我慢したら」
「二人はサッカー協会の会員カード持ってるから元々1000円なんだよ。あたしだけお金掛かっちゃうせいでなかなか行けなかったの。だからさ、リカちんも一緒に行こうよ。春日山部屋塩ちゃんこ一緒に並ぼうよぉ」
「ちゃんこ…………ちゃんこ?」
「お相撲さんがね、サッカー場でちゃんこ売ってるんだよ」
「矛盾してるわ……」
「じゃあフランクフルト!ううん、贅沢は言わない。アメリカンドックでもいい……発泡スチロールの安っぽいお皿噛んで歯キシキシ言わせようよぉ」
「あなたは何をしに行くの……」
「サッカー観戦!」
「ねえ翠。こう言ったら早いかしら。私は、球蹴りが、嫌いなの」
「どの辺が?」
「そうね……テレビ中継があるでしょう。宗介がよく見てる海外のリーグなんか深夜よね。私が夜ベッドに入ってうつら、うつら、静かな時間を楽しんでいると、扉の向こうから奇声が聞こえてくるの。数分おきに」
「桜井……!」
「うがぁとかシャーとかウホーとかいやいやいやとか、テレビに向かって叫んでるのよ。軽いホラーよね……」
「桜井……!」
「これで分かった?」
「リカちん、それはサッカーの欠点というより桜井の欠点なのでは……」
「一緒でしょう」
「なにやってんだよぉ、馬鹿!」
「とばっちりだ……」
「じゃあ桜井とは離れた席に座ろう。一緒にガラガラの二階席に行こう。下らない球蹴りに一喜一憂する人間達を高いところから見下ろすの。そういうの好きでしょ?」
「楽しそうね」
「お金も、あたし達が浮いた200円出すからリカちんは払わなくていいよ」
「翠、ちょっと待て」
「桜井は黙ってなさい」
「…………」
「リカちん、スポーツ自体は嫌いでもないでしょ?ウィンブルドンこないだ一緒に見たもんね」
「そうね……いや、やっぱり嫌いよ。特にサッカーは。あの……なんて言ったか、ゴール前で倒れたフリして審判に詰め寄るやつ」
「シュミレーション」
「あれ、なんなの。貴方達スポーツ選手なんでしょう。県連に陳情に来る自然保護団体じゃないんだから……」
「それは例えなのかな?」
「痛そうに倒れてた人は反則貰ったらニヤって笑ってすぐ立ち上がるし、ぴーけーがどうの、カードを揃えて退場だのなんの、どう見ても公正なスポーツじゃあないじゃない」
「それはまあねぇ……」
「プレーじゃなくって審判の判定を見る競技みたい。そんなのスポーツじゃないわ」
「桜井」
「困った時だけ振るなよ……」
「でもあたしもシュミレーション嫌いなんだもん」
「そういうもんだと思って見れば別に……ルールに則ってやってんだし」
「ルールがおかしい!」
「パンク・ロッカーみたいなこと言うなよ……」
「思うんだけどさ、PK無くしてみたらどうかな。全部間接フリーキックにするの。入りそうで入らないちょっとだけ入るPK、みたいな」
「新機軸だな」
「ちょっと。馬鹿にしてるでしょ。これでも真面目に考えたんだよ」
「暇だなお前」
「シュミレーションの罰則も厳しくなってきてるから、あの……アンスポーツマンライクコンダクト?イエローカード出るでしょ。それプラス、PKをもう少し入りにくくしたら釣り合いが取れると思うの」
「でもお前それは……あれだ。見ただろ南アフリカのガーナ対ウルグアイ。同点の延長後半ロスタイム、キーパー不在でがら空きのゴールにガーナの選手がシュートして、スアレスが思いっきり手で止めたやつ。当然レッド出て退場になったけどギャンがPK外してタイムアップでそのままPK戦に突入して……ウルグアイ勝っちゃっただろ。ギャン泣いてたぞ。アフリカ初のベスト4が掛かってたんだ。俺は試合後のスアレスのニヤニヤ笑いを絶対忘れない」
「桜井がスアレス嫌いって話?」
「違う。PK入りにくくしたらこういうのが増えるんだよ。ヤバかったらハンドで止めればいいやみたいな。この時なんかFIFAからお咎めなしだったんだぞ。絶対おかしい」
「じゃあハンドはPKで……」
「どフリーでキーパーと一対一のとこを後ろからDFがスライディングして蹴倒しました。間接FKです。これも十分おかしい」
「間接フリーキックだったらみんな壁に入らないといけないでしょ。時速100キロくらいのボールがこっち向けて飛んでくるんだよ。痛いのヤダからファールしなくなるんじゃないかな」
「ないな」
「ないかなぁ……あたしの新機軸」
「それよりもピッチ外の罰則を強化する方がいいだろ。罰金か出停か……ムトゥがコカインやって一年ちょっと追放されてた、あんな感じで。ダイブしたやつに逆グリーンカードか何か出して、四枚で今季は出場不可とか」
「グリーンカードってなに?」
「審判の資格取るとサッカー協会から送られてくんだよ。フェアプレーした選手に”あんたはエラい”っつー気持ちを込めて提示しなさいって。タンスの肥やしだけど」
「ふうん」
「やっぱPK廃止とか、ピッチ上のルール変えるのはやりすぎだと思うんだよな。もう長い歴史がある訳だし」
「えー、でもオフサイドルールだって変わったじゃん。プレーに関与しない限りってやつ。あれ数年前だよ」
「そんなのあったな」
「そのせいであたしの愛するフラットスリーは絶滅したんだから」
「別に良いじゃん」
「よくないよ!”ハイラインでスペース消せば一人くらい守備サボっても怒られない”理論がファンタジスタを生んだんだから。マラドーナだってジャンフランコゾラだってアルバロレコバだって」
「翠南米好きだよな」
「好きだよ。悪いの。そうだよ、派手なプレーが好きだよ」
「別に……」
「大体みんながみんなフォーバックじゃ詰まんないじゃん」
「スリーバックも最近復権してきただろ」
「違うよあれはツーストッパーのワンリベロでボランチが一枚バックラインに吸収されたのと一緒だよ。あたしはフラットスリーが顔見合わせてキュッてライン上げる瞬間が好きなの。三枚は対等じゃないといけないの」
「ゲームでやれ」
「言うこと聞いてくれないんだもん」
「不憫なやつだな……」
「それに最近サッカーゲームでまでシュミレーションするんだよ。あたしそんな操作してないのに」
「リアリティの追求だろ」
「そんな現実いらない!」
「だからパンクロッカーみたいなこと言うなよ……」
「……っと、あれ、リカちんは?いないよ」
「ホントだ」
「桜井がシュミレーション擁護するから怒っちゃったんだよ」
「翠、一ついいか」
「なによ」
「さっきからお前言ってるけど、シミュレーションな」
「シュミレーション」
「違う。シミュレーション」
「シュミ、シ、シムレーション」
「もうそれでいいや」
暗転