PULLTOP新作『この大空に、翼をひろげて』プレビュー

PULLTOP新作『この大空に、翼をひろげて』プレビュー



エロスケでやれって話なんですが折角なのでこちらで。
PULLTOPの新作『この大空に、翼をひろげて』の発売前ああだこうだ論になります。
夏ノ雨』で一躍注目を浴びたシナリオライター、紺野アスタ先生の新作ということで楽しみにしている一本です。
どのくらい楽しみかというと紺野アスタの走馬灯日記(仮)で新作予告があった11/30、手帳に大きく「予約!」と書き込んだくらいに……。
今回は紺野アスタ先生について少し触れます。
ベタ褒めにはなりませんでしたがそこは素人のタワゴトと言うことでよろしくお願いします。

ライター、紺野アスタについて

この大空に、翼をひろげて』が三作目となる紺野アスタ先生のこれまでの(エロゲでの)経歴について。
あまり露出の多いライターではないので著作以外のトピックは多くありません。ブログで妹観を披瀝しボヤ騒ぎくらいでしょうか。

紺野アスタ企画・シナリオ。
Cuffsの姉妹ブランドとして発足したCubeのデビュー作であり、一作目での萌えゲーアワード金賞受賞が話題になりました。
正確には萌えゲーアワード2010純愛系作品賞金賞というちょっと名前長めの賞です。
萌えゲーアワード自体には諸説ありまして、
・その年発売された全てのゲームが対象となる訳ではない
・ユーザー投票の仕組み上人気ブランドの作品が全階級制覇、なんてことが起こりやすい
といった点から批判されることも多いです。
ただモンドセレクション金賞とかグッドデザイン賞のように”金で買える賞”とまで言ってしまうのは行き過ぎで、賞の総数が決まっていてかつそれなりにエントリー数も多いのでひとつのイベントとしてはアリじゃないかなと個人的には思います。
開催年数も七年を数え認知度も上がってきましたし、明文化されたルールでこそありませんがブランドにエントリー自粛・辞退をお願いする形で(いわゆる殿堂入り)人気ブランドに投票が集中する事態への対策も取られつつあるようです。
若手ブランドの登竜門的位置づけでエロゲネタ・業界板ベストエロゲーとの差別化も成功しそうです。
そもそも論としてエロゲーの評価を集約する場が少ないので……。
受賞しているから名作に違いない!とは言いませんがその年発売した面白そうなエロゲー、くらいに思えば十分有用でしょう。

その”2009年発売の面白そうな純愛ゲー”であるところの夏ノ雨に話を戻します。
夏ノ雨については割と評価が安定しています。「爽やかな青春物語」「粗のない萌えゲー」といったところでしょうか。
個人的にはひなこさんマジ魔性の一言に尽きるのですがそれは置いておいて、夏ノ雨の特徴を挙げさせてもらうと、

・コテコテの萌えゲーではない
いわゆる”萌えキャラ”は出てきません。萌え萌えキュン!(死語)とか言い出すヒロインはいませんしモノローグでやたら主人公が人生について考えていたり狙ったようなギャグを飛ばすこともありません。あと世界も救いません。
この辺りは『ヨスガノソラ』を出した同じCuffs系のブランドSphereと似たようなカラーです。
・思いのほかエロい
回想シーン数は3-4で非抜きゲーとして平均的なところです。尺がそれなりにあって声優さんの演技も上手です。ひなこさんマジ魔性の女です。

ライター本人が夏ノ雨に対し青春18禁ドラマという表現を使っていますが(リンク)その目論見通り”爽やかな青春物語”という評価を得ることに成功しました。

※参考
 純愛系部門の評価基準としてはヒロイン達との恋愛交流部分であり、日常での小さな交流を積み重ねる事によって、どれだけ自分が恋愛体験に関われるかで評価が大きく分かれるところだ。
 金賞の『夏ノ雨』は集計当初から支持を集め、ユーザーの感想も多かった作品である。本作は夏の青春時代を爽やかに描写しており、特にキャラの感情起伏を絶妙に描き、次の展開が待ち遠しくなる魅力があった。それは一緒に過ごす充実感と、居るからこそ生まれる心配材料など、親近感を沸かせるようなイベントを配置し、クライマックスで昇華するように配慮されていた。その為プレイ後の満足感は今年度の中では群を抜いていた。
 本作はあくまでも現実世界に近い物語を貫き、特異な能力を持つキャラは登場しない。あくまで人と人との感情が交錯した人間ドラマだ。キャラ、シナリオ、演出技術もバランス良く調理され、プラトニックな純愛系作品の代表として薦められる一作と言えよう。

萌えゲーアワード2010 受賞タイトル発表

狙ったことを形に出来ていてああいいゲームだと思ったのは僕だけではないでしょう。
感動を求めてプレイしてしまうと肩透かしを食らう可能性はありますが。

紺野アスタ企画・シナリオ。
Will系列ブランド、プラリネのデビュー作。
デュエリスト×エンゲージについては夏ノ雨ほどの好評は得られませんでした。
無難、普通、ぱっとしない。展開が突拍子も無いというシナリオから思考が理解不能という人物描写、スベり気味のテキスト、隙あらばチヤホヤされる主人公、一枚絵の崩れ、テキストボックス透過度・個別ボイスの調整が不可といったシステム上の不備の指摘まで批判が一揃いした感があります。
ただ特にシステムに言える事ですがオート進行など最低限の部分さえあれば笑って済ますことができるんです。ゲームの内容が素晴らしければ。ということでやはりライターの失敗、というより非大成功として責任を問う必要があります。

紺野アスタ先生がデュエリスト×エンゲージでやろうとしたことは明らかで、夏ノ雨と正反対のドタバタコメディです。
『〜パンツを見せること、それが…… 〜大宇宙の誇り』『ひのまるっ』といったWHEELゲーであったり他に有名どころでいくと『ままらぶ』のような。
よろしいならば決闘だというコピーからして実際に日本でやったら交番に連れて行かれますし、決闘罪で。
もっと言うと『桜花センゴク』に近いかもしれません。これは戦国武将転生ものです。
そもそもの方向性がそっちなので突拍子も無い展開を批判するのは若干ズレていて、量産型の万能モテモテ主人公を批判するのもやっぱりズレている気がします。
エロゲーでやるスラップスティックコメディにおいてそれらは要素として本来必要不可欠です。何も考えずに楽しみたいですし、何も考えずに楽しめるものを作る予定だったのでしょう。
デュエリストエンゲージが悲しいかな光の見えないゲームとなってしまった原因を考えてみると、それはそうした企画そのものというより細かいところ、違和感を埋めるハズだった魅力の単純な不足にあるよう思えます。
『パンツを見せること……』くらいぶっ飛んだ設定にしてしまえば何が出て来るか分からない楽しみがありますがそこまで思い切った選択はしなかったわけです。飛び道具は使わず日常のやり取りやヒロインのかわいらしさで地道に勝負していく道を選びました。
それって紺野アスタ先生の得意分野だろうとデュエリスト×エンゲージ発売当時の僕は確信していました。面白いものが出て来るに違いない。しめしめ、とか心の中でくらい言ったかもしれません。
ところがフタを開けてみればなんだか凄く、凄く平均的な出来でした。褒めも貶しもしようと思えば出来るし、なおかつその気も大しておきないような。
魅力的な世界の構築でありヒロイン作りがうまくいかなかった為に”普通の萌えゲー”の枠に収まる出来になってしまった、真っ向勝負した結果の力負けが製品としてのデュエリスト×エンゲージなんじゃないかなと思います。

余談。
作中に登場する巴ママこと志藤巴さん(CV佐本二厘)はふーりんフリークの間で四大お母さんの一人として知られてます。知られているというか崇め奉られてます。
結子さん、巴さん、七香さん、洋子さん皆さん魅力的ですけども僕も誰を信じるかといえば巴さんです。キリッとした表情が一級品です。
徹頭徹尾ちゃらんぽらんでテンプレと独創性の狭間をただよう可愛らしさなんです。近所のボス猫とガチバトルを繰り広げる後姿に宇宙を感じます。


三作目『この大空に、翼をひろげて』を前に

夏ノ雨の成功とデュエリスト×エンゲージの非成功をもって得たのは、
”紺野アスタは万能だから青春モノも上手く書けた、のではなくて紺野アスタはそれに向いてた”という情報でした。
明らかに感動させにきていた夏ノ雨理香子ルートの出来を見るにいわゆる泣きゲーに向いているとも思えません。
デビュー作で全力を尽くさないライターはいませんしましてや自分で企画した作品ですからこれを現時点で持っている個性と考えて差し支えないでしょう。
限界が見えた一方、可能性も見えました。
けれん味なく読みやすいテキスト、ちょっとしたウィット、クサくならないキャラクター作り。
どれもこの業界のライターとして稀有なものではないでしょうか。
ですから三作目は青春モノに戻ってきてくれないかなあと思っていたところでど真ん中、『この大空に、翼をひろげて』。
僕が思わずガッツポーズを取ってしまったのもご理解戴けるかと思います。

という訳で『この大空に、翼をひろげて』発売まで後数日。
楽しみですね。体験版すらやらずに耐えていたこの数ヶ月を思えばあっという間です。
個人的には心地良い作品世界や登場人物の弾むような遣り取りに期待していますが、
実は号泣ゲーで紺野アスタ先生の新境地を見せられる展開もちょっと夢想しています。オッズ高めですが。

発売後暫くしたらレビューするつもりです。