エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談その6』

夏ノ雨 翠ss『雑談その6』
説明:ボールを奪い合う翠ちゃんと宗介



夏の大三角形ってあるじゃない」

「星座の?」

「そう。こと座のベガ、わし座のアルタイル、白鳥座のデネブ。それでね、」

「デネブはいつか爆発して、ブラックホールになるんだってな!」

「……そうなんだ」

「あのな、ベガとアルタイルが織姫と彦星だろ。それなら残ったデネブは仲人か何かだと思いきや、実は間男なんだよ。あの手この手でベガ嬢に言い寄るんだけど相手にされない。それで数千万年ベガに振られ続けた挙句、嫉妬で爆発するんだ」

「なにそれ……」

「距離的にも地球から織姫星・彦星までは大体20光年ずつ離れてるんだけど、比べてデネブだけ100倍くらい遠い所にいるんだぞ。ハブられてるんだな」

「ふうん……」

「でも恐るべきことにベガ嬢に向かって全速力で近づいてるんだ。数十万年後にはキスするんじゃないかって勢いで。それでもやっぱり地球からは遠いんだけど」

「そう……」
「どんだけ遠いって今のデネブはだな……20光年の100倍で2000光年だろ。光が一秒で地球七周半するんだから7.5掛け60掛け60掛け24掛け365掛け2000で4730億だぞ。地球4730億周分ってどんだけ遠いんだよって、な!なっ!」

「桜井って数学苦手じゃなかったっけ……」

「これ算数」

「そう……」

「それでな、100倍遠い場所にいるのにデネブもベガとかアルタイルと同じくらい光って見えるだろ。それはやっぱり100倍光が強いからなんだよ。どんくらい明るいかって地球から見た明るさじゃなくて近くで見たときの絶対値で比べると今見つかってる恒星の中では一二を争う光りっぷりなんだと」

「…………」

「ちなみにな、これ有名な話だけどベガ嬢と横恋慕のデネブを結んでみるとするだろ。それで出来た直線を挟んで、彦星と対称の位置に丁度北極星があってその昔道に迷った」

「桜井!ストップ!」

「旅人なんかが……なんだよ」

「星座の話振ったのあたしだよ、あたしだよ?ねえ」

「おう」

「なんで勝手にテンション上がっちゃってるの」

「別に……上がってない」

「上がってましたっ!だってあたし”夏の大三角形ってあるじゃない”からひとっことも喋ってないもん」

「嘘言え……そうだっけ?」

「あーもう、あたしの小粋な天体ジョークが台無しだよ」

「お、なんだよ。聞かせろよ」

「……やだ」

「元々言う気だったんじゃねーの」

「なんか桜井が食いついて来るからやだ」

「なんだよそれ……」

「だって意外に星座詳しそうなんだもん。なんかアラ探しして突っ込んでくるんでしょ」

「しないしない。絶対しない。それにそんな星座も好きじゃない」

「嘘だね。なんかまだニタニタしてるもん」

「生まれつきだ」

「デネブが間男でなんのかんのって、何それ。らしくないよ」

「ちょっと思い出したんだよ。昔そんなこと言ってたなあって」

「誰が」

「ひな姉」

「ひな先輩?」

「ほら、暫く田舎住んでたから。母ちゃんが離婚して俺と朋実連れて実家に帰って……夜になったら、わっさーって星が見えんだよ。それで何だコレってびっくりして」

「あー」

「ひな姉に引っ張られて屋根登ってさ、二人で皿みたいな天体図回してあれがコレじゃねーのいや違うとか、そんなコトやってたなあって」

「ふたりで、朋実ちゃんは?」

「あいつ高いところ嫌いだから。落ちる、落ちるばっか言って登って来なかった。そのくせ下から、星見上げてる俺達見上げてたんだけど」

「ふうん……。ちょっと絵になりそうだね」

「実際何度か落ちたけどな。ボロ家だから腐ってるとこ踏むと抜けるし、瓦はボロボロ剥がれるし……」

「あたしのロマンチックを返しなさい」

「おー、なんか懐かしいなぁ。そうだ、意外に何の星だか特定するの難しかったりな。そもそもわっさーって出てるから、どの星?あの星!だからどれ?ってなるんだよな」

「……桜井は、そこでひな先輩にさっきのみたいなこと教えてもらったの?」

「さっきの?」

「ほら、よく分かんない星座豆知識。地球何周分とかブラックホールになるとか……」

「あー……どうだろ。教わったと言えばまあ、そうか。でもひな姉もな、そんなに詳しいワケじゃないんだ」

「そう?なんかいきなり数字出てきてびっくりしたんだけど」

「何となく覚えてただけだって。ただ空眺めてるんじゃ飽きるだろ。そしたらひな姉が学校で本借りて来るようになって。星座の本。屋根登る日は空が晴れてる日だから大抵月が出てて、その明かりで本くらい読めんのな。ソレ情報」

「デネブが間男も?」

「そっちはひな姉の妄想。聞きながら何回寝そうになったことか」

「あぶないな……」

「そういやデネブ間男説の他に、保険の外交員説ってのも浮上したんだった。こっちは逆にデネブが女で、保険売りつけに行ったデネブ子が彦星に一目惚れして」

「展開同じじゃない……でもデネブは織姫に近づいて行くんでしょ?」

「それはだな、恋敵をナイフで」

「恐いよ!何考えてるんだよぉ……ていうかもういいからそれは」

「そうか?」

「まったく、力が抜ける」

「なんだよ人の思い出馬鹿にしやがって……。翠、お前の天体ジョークどこ行ったんだよ」

「えー」

「それはさぞウイットに富んだおジョークなんでしょうなあ」

「……桜井、笑わない?」

「いや、ジョークなんだろ……」

「あたしをだよ!笑わせるのはいいけど笑われるのはムカツク。特に桜井に」

「笑わない、もう金輪際笑わない」

「じゃあ、その……待った、笑ったら罰ゲームだからねっ」

「ドンと来い」

「あたしのも今の、デネブがベガに近づいてるって話なんだけど……夏の大三角形ってあるじゃない」

「おう」

「でも、空に三つ星が光ってたら何だって三角形に結べるじゃん。正三角形ならともかく、これってちょっとズルい気がしない?全然特別じゃないよ。”夏の三点”って呼びなさいって話じゃん」

「まあ……そうかな」

「それでだよ。そのデネブもベガもアルタイルも動いてるわけだから、いつか三つが横並びになることもあるよね」

「まあ……そうかも」

「そしたらもう特別な呼び方して良いわけ。夏の直線って!」

「はあ……」

「おしまい」

「…………は?」

「……おしまい」

「はああ?」

「あー!バカにして!違反だ公約違反」

「いや、何が起こったのかさっぱり……」

「やめなさい、うああ、あたしのことそんな目で見ないのっ」

「だってなあ……事故だろ」

「!!」

「夏の直線……ドヤ顔で……」

「……桜井のせいで恥かいたっ!」

「ホントだ。顔赤くなってきた」

「ななな、見ないで、見るなよぉ、こっちきゅるな」

「きゅるな?」

「揚げ足取るなっ……!」

「そんな怒きゅるなよ」

「ふー!ふーっ!ば、罰ゲームっ。桜井、お茶汲んできてっ、今すぐ!」

「罰ゲーム?」

「笑った!あたしのこと馬鹿にしたもん、ていうかしてるもん、してるでしょ!」

「してるけど……」

「……っ!……っ!」

「ったく……しょうがねーな」

「ふぅ……ううう……」

『…………』

「はあ……はあ……ふうーー」

『…………熱いのでいいかー?』

「なんでもいいー!」

『分かったー!』

「すうう……はああ……」

『…………』

「はふう……桜井め……」


…………


「ずずず……」

「ずずず……」

「…………」

「ずず……桜井」

「なんだ」

「ちょっと関係ない話していい」

「どれくらい関係ない?」

「えーと、昨日のお昼休みにリカちんとしてた話くらい関係ない」

「いいよ」

「昨日のお昼休みにリカちんとしてた話なんだけど……」

「おう」

「来週で制服、衣更えじゃない」

「まあ、そうな」

「そろそろ月見バーガーの季節だよね」

「お前の秋は分かりやすいな」

「そうなって来ると、外せないイベントがあるわけ。紅葉を眺めつつ深まる秋に浸りたい、そう、温泉につかりたい……」

「うん?」

「露天でお猿さんが迷い込んできたりとかね。ああいいなあ、落ち着くだろうなあ、立ち昇る湯気に俳句の一つも詠んじゃったりして」

「冬じゃねえの、それ?」

「冬まで待てないの」

「はあ……」

「あたしだけじゃないよ。リカちんも目、輝かせてたもん」

「理香子がねえ……」

「あのね桜井、知らないだろうけど。女の子に生まれたからには温泉を愛さずに居られないの。この赤い血が騒ぐんだよ」

「全然落ち着かなさそうだな、それ」

「その時、あたしとリカちんの心は一つになったの……温泉に行こう、それも良い感じの!」

「ふうん……行きゃあいいじゃん」

「それでね、昨日本屋さんで緊急会議したんだよ。議題は”この辺の温泉”」

「素直に立ち読みって言えよ……」

「いくつか候補が挙がったんだけど、最終的に全会一致を見たの。なにしろ、あたしとリカちんの心は一つだったから!」

「それさっき聞いた」

「でも大変だったんだよ。色んなお風呂入れる所がいいし、あとは近くて安くておいしくて……旅館にくっついてる温泉だとお泊り客専用とかあるから困るんだよね」

「なんなら泊まりでいいだろ。お前も理香子もバイトしてんだし、たまには奮発して」

「……奮発できるの?」

「うん?」

「桜井は奮発できるの?」

「俺……?なんで」

「もち、桜井も来るからでしょ。あたしたちだけだったらお泊りで湯元まで行くもん」

「えーー、パス」

「……なんでよ」

「別に温泉好きじゃないしなぁ、金払ってまで入ろうとも思わん」

「ごくり……」

「それに、お前らと行っても結局風呂場で俺一人じゃねーか」

「一人じゃないよ混浴だもん」

「一志誘って、いや、あいつも俺と似たようなもんか…………今何て言った?」

「一人じゃないよ、なぜなら混浴だから」

「翠、今……」

「こ ん よ く」

「!!」

「ふふふ……」

「こ、混浴……え、混浴とは……?」

「そう、男女混浴の温泉を厳選してみたの。桜井が寂しくないように」

「な、理香子は……?」

「桜井は来ないのって言い出したのリカちんだよ」

「なに……あっ、あれだろ!温泉とか言いつつスパなんだろ水着着用の」

「水着の着用はご遠慮頂いております」

「!!」

「本泉は硫黄の含有量が多くゴム成分等の溶け出す恐れがございます。そのため水着の着用はご遠慮頂いております」

「あれだ、そういうとこは、男だらけの……」

「本泉のご利用客は若い女性が大半となっております」

「!!」

「じゃああれだ……あれだ……」

「うんうん、水着の着用を禁止された妙齢の女性が」

「おおう……いや、しかし……」

「ふふ……桜井顔赤くなってきたよ。なに考えてるのかなぁ……?」

「別に、べ、別にぃ……」

「あはは、……膨らんじゃった?」

「ふ、ふくっ、膨らんでねーよ。翠お前シモネタ」

「いや、ほら楽しい想像がね、膨らんだんじゃないかなって……ちょっと立ってみて」

「断る」

「じゃああたしが立つけど」

「ななな……み、見るな、こっちきゅるな!」

「きゅるなぁ?」

「揚げ足取るなっ……!」

「ふふ、そんなこと言われたら……誘う気なくしちゃうなぁ」

「……み、翠……良かったら」

「うんうん。なんだね」

「僕も是非温泉に」

「いいよ」

「マジで!?」

「まあ足湯なんだけど」


暗転