エロゲー 夏ノ雨 翠ss『心理的強制』
夏ノ雨 翠ss『心理的強制』
説明:共通ルート。
家庭裁判所に訴え出る翠ちゃん。
遊園地での一件
「でね、次なに乗ろうかってみんなで相談してたんだよ」
「片っ端から攻めてけばいいじゃない。減るもんじゃなし」
「それがね、コーヒーカップとかロックンロールとか回り物ばっかりのゾーンに入っちゃってて……そんなの乗ったらお昼ご飯出てきちゃうじゃん」
「翠、きたない」
「ごめん、ごめん。でとりあえずそのゾーン通り過ぎたんだよ。そしたらなんか森?森の入り口があって」
「森?」
「森」
「仮にも遊園地に森は無いでしょ」
「でもあったんだもん……。あのね、そこだけ変に人気がなくってアトラクションも見当たらないの。昼間なのに暗いし、あっちにもこっちにも”工事中”の看板がバサバサって倒れてて、アスファルトも所々剥がれてて……暗ぁい森の奥の方からね、悲しげな鳥の声が聞こえるの」
「なによその怪しげな展開。人中異界的な作り話?暗い森とか」
「怪しくないよ、本当だもん……。じゃあ林にする」
「何の譲歩にもなってないわよ……」
「とにかくその、林の入り口みたいな工事中の場所に出ちゃったんだよ」
「ねえ宗介。本当にあったの、そんな所」
「あ、あった……」
「ふうん、そう……」
「でね、リカちん。人の気配全然ないし、やっぱりちょっと気味悪いじゃない。それですぐに引き返したんだよ。そしたらその途中で、ミッチがあー!って脇の小っちゃい建物の方に走って行ったの。何かと思ったら旗に”幽霊屋敷”って出てるんだよ」
「ユーレイ屋敷ねえ……」
「まあ一応、どんなのかなって見てみるでしょ。でも、やってるかどうかも分からないの。入り口が障子になっててその横に”幽霊屋敷”って旗が一本立ってるだけでね、料金表とかアトラクションの説明もないの。しかもコンクリート打ち放しの平屋建てで窓一つ無くって、すごい壁がね、ぶ厚そうなの。中で何やってても気付かれないっていうか、誰か監禁されてそうっていうか」
「かんきん……と言うか翠、さっきもお化け屋敷入った話してたじゃない」
「そうなんだよ。でもそっちは『ハウス・オブ・テラー』でフランケンとかジェイソンの像置いてあって洋風な感じだったでしょ」
「でしょと言われても、私行ってないから」
「む、そうだった……。とにかく、午前に回ったほうは何か洋風だったんだよ。ピカピカ光ってたし。でもこっちは幽霊で和風だしああ、二種類あるのかなって」
「ま、お化け屋敷が幾つあろうと構わないけど」
「ちょっとさ、森……林のせいで陰気な感じの場所だからその幽霊屋敷、あんまり楽しそうに思えないのね。遊園地なのにそこだけ人通りが全然無くて……寂れてるって言うのかな。別に全部のアトラクション入る義理もないし、放っといて戻ることにしたんだよ。そしたら」
「ミッチでしょう」
「……そう。ミッチが入ってみようよって。ミッチあれでホラー大好きだから……何て言ったっけ、チャーチ・ストリート?」
「『テラー・オブ・チャーチ』。フロリダのチャーチ・ストリートにあったお化け屋敷。小さい頃にお父さんに肩車されて入った。チェーンソー持ったジェイソンが追いかけてきて逃げたいのにお父さんが逃げてくれない。死ぬほど泣いた。ジェイソンの息は生温かった……うわ、あの子散々同じ話するから覚えちゃったじゃない」
「そうそう、世界五大お化け屋敷なんだっけ……ちょっと桜井聞いてる?あたしもリカちんも桜井に説明してるんだよ」
「き、聞いてる……」
「そーだ!思い出した。あの時あたし桜井にこう、目で訴えたんだよ。ここはちょっとやめときたいなぁって。でも無視されたの」
「アイコンタクトは難易度高すぎでしょ、宗介には」
「……でもリカちん。ミッチが入ろうよ入ろうよぉってあたしの腕引っ張ってくるでしょ。あたしが困って、うーんどうかなぁって言うでしょ。それでなんか嫌がるあたしを丸めこめ!みたいな空気になって、みんなニタァって笑顔で説得してくるわけ。お化けは第五次視覚野の錯覚だよとかサンタさんはいないんだよとか。それで弱ったあたしが桜井助けて!って見たら、我関せずで一言、”とっとと決めてくれ”。コレだよ?」
「友達甲斐が無いわね」
「そーなんだよ!……そのせいで六名様、ご案内」
「結局営業してたわけ」
「そう、入り口のトコでそんな感じに騒いでたらね、障子が音もなく開いて白装束の女の人が”どうぞ……”って。おかげで入らないワケにもいかなくなっちゃって。……それで中入ったら正面にどーんと下り階段があるだけなの。この建物お化け屋敷にしては小さいなって思ってたんだけど、地下室の入り口だったのね」
「ふうん」
「照明一個も点いてなくって階段の先真っ暗なんだよ。やたら階段急で、暗闇に落ちてく感じなの。なのにみんなに押しやられて、あたし一番先頭だよ?みんなヒソヒソ話してるのに、あたしだけ一人で先行かされるんだよ……?それでね、足音がね、コンクリートの地面にカツン、カツン……って鳴るじゃない。怖いこと考えないようにその数かぞえてたらバタン!っていきなり入り口閉められて、もう何にも見えなくなってさぁ……でもみんな前行けってあたしの背中押してさぁ……」
「なんで泣き入ってるのよあなた」
「だって何にも見えないんだよ……?だからカニ歩きで一段ずつ階段下りてくんだけど、いつまで経っても下に着かないんだよぉ」
「カニ歩きだからでしょ」
「寂しいしだんだん体冷えてくるし全然目慣れないし、この階段いくら下りても終わらないんじゃないかって……」
「階段終わらないハズがないから」
「その時は終わらないかもしれなかったんだよぉ。だってお化け屋敷だもん。なんか下りてるつもりが上ってて、ぐるぐるなってたかもしんないじゃん!」
「それ頭がぐるぐるなってるから」
「なんだよぉ、リカちん……」
「なんでそこで裏切られた風なのよ」
「むう……それでさ、何とか階段下りきったんだよ。で、ほっと一息ついて前見たら目が慣れてきててね、見えるんだよ。この先井戸とか白っぽい布とかお墓とか傘とか柳の木とか鳥居っぽいのとかあるんだよ、絶対あるんだよ、見えるんだよぉリカちん!」
「…………」
「もう無理!無理!ってなって、でも今度はみんなずんずん先行っちゃってひとりになるのとかもっと無理だよ、無理だから付いてくしかなくってさ、桜井にせめて手握っててよぉってぎゅってしたらね…………振り払われたの。触んな、みたいに」
「…………」
「それも一回じゃないよ。なにかの間違いかなって何度もぎゅってしたんだけどね、そのたび力づくで振りほどかれるの。あたし一生懸命掴んでるのに桜井にね、手引き剥がされて、ぽいってされるの」
「待て、近くに委員長いたんだぞ。手繋いでるとこなんて見せられるわけないだろ」
「そんなの知らないよ。覚えてるのはね……あたしの手、振りほどいてスタスタ歩いて行っちゃう桜井の後姿だけだよ」
「俺の話も聞けって、あのな」
「きっとこういうのトラウマって言うんだね。信じてた人に裏切られる体験ってさ。あたし一生忘れないからね……。だからさ、リカちん……」
「待て、待てって。確かに俺もちょっとは、ほんの少しくらいは悪かったかもしれない。しれないから、こうして」
「反省してる……?」
「してる、してる」
「このウソつき!」
「あ、理香子!10分経った!」
「もう10分経った?じゃあ宗介、立っていいわよ」
「えー!リカちぃん……」
「おお痛ぇ、助かった……」
「……宗介。それでそこ座りなさい」
「おう……?」
「違う。椅子じゃなくて、そこ」
「床……?」
「正座」
「また……?」
「プラス20分」
暗転