エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談7』
夏ノ雨 翠ss『雑談7』
説明:共通ルート。
翠ちゃんと猜疑心
「最初にさ、ポテチをギザギザにするの考えついた人って天才だよね」
「さあ……まあ、そうか。ふああ……」
「なに、興味ないわけ」
「あるある……」
「はじめに……桜井」
「おお」
「”はじめにことばがあった。ことばは神と共にあり、ことばは神であった”」
「あー、ゴッドが作ったわけじゃねーんだ、言葉」
「そこから創世記に接続して……、創めに神が天と地を造った。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は云った。「光あれ」。すると光があった。……それから神は人、犬、リス、クラゲ、シロアリ、大腸菌、昼と夜などを造ってだね……重要なのはね、これだよ。”神が造った総てのものを見ると、それは甚だよかった”」
「はなはだ……おおむね?」
「非常に。JIS規格なんて目じゃないくらいに。全国模試で冊子に載るレベル」
「分かりづらい」
「100円拾って角を曲がったらまた100円」
「いや絶対裏があるぞ、それ。手放しで喜べない」
「晩御飯がカレー。四等牛肩バラ肉ゴロゴロ」
「何の呪文だ……ま、嬉しいけど。ちょっと伝わった」
「つまりね、この世に有りとしある良い具合のもの、それすなわちビーフカレーなわけ」
「落ち着け」
「神の御業なわけ」
「ふーん」
「絶妙なバランスがそこにあって、んぐんぐ……だからね、桜井。もうさあ……思うわけだよ。思わざるを得ないわけ、最初に……」
「んぐんぐ」
「最初にポテチをギザギザにするの考えついた人って天才だよね……」
「ぱりぱり……」
「んぐんぐ……だっていい具合だもん……ザクザクでね、かと思ったらパリパリで……芋の味して……もう発明通り越して創造だよ。人間の作ったものとは思えない」
「まあ、そうな」
「”「ポテチあれ」。するとポテチがあった”」
「神様がスゲー怠惰っぽいぞ。横になってテレビ見てるだろそれ」
「こら、もっと褒めて!賛美せよ」
「えーと……スゲー、超ウマイ……超サクサク……」
「それだよサクサク。二十世紀末までの古典的ポテチは平面構造だったでしょう。ある時彼らは発見しました。従来より薄めに切って高温で揚げる。するとポテトが湾曲しサクっとした食感が生まれる。なにこれ楽しい。コロンブスの卵。でも薄いから噛み応えがない。風味も落ちる。かと言って厚くしちゃうと曲がらなくてただの堅い板になってしまう。こちらを立てればあちらが立たず。卵が先かニワトリが先か。生きるべきか死ぬべきか。サクサクかそれともパリパリか……。開発は暗礁に乗り上げた。誰もが頭を抱えた。胃袋の限界。苦悩する男たちの額は油でテカっていた。もう諦めるしかないのか……。夕日差す開発室に長い影が伸びる。その時、一人の男がおもむろに手を挙げた。サクサクでも駄目。パリパリでも駄目。……そこで立体!そこでギザギザ!発想の転換!二次元から三次元へ、ジスルフィド結合!しかも味が染み込み一挙三得……!!(ふるふる)」
「…………」
「…………」
「満足したか?」
「うん」
「ふあああ……」
「ふぁぁ……」
「寝てくる」
「こら」
「くああ……」
「んぐんぐ、ぱりぱり……」
「うまいか?」
「うん」
「理香子の分も残しとけな……」
「ね、桜井。リカちん帰ってこないの」
「帰ってくる」
「何時ごろ?て言うかリカちん何してるの」
「買出し行ってる。今日は三軒ハシゴするんだと。お米買うから自転車貸しなさい〜ってエコバック畳みながら」
「主婦だね」
「主婦なんだよな……ああ、晩飯カレーとも言ってた」
「それで桜井はなんと?」
「うん?中辛」
「違う。自転車の方」
「鍵渡したけど」
「……そういう時はね、一緒に行って荷物持ってあげなきゃ。まったく」
「いや、翠が来なかったらそうしてた」
「あれ……」
「一緒に出ようって時に丁度お前のメール来たんだよ。”バイト早上りになった(^。^)お土産あり”」
「違うよ!そんな不細工な顔文字使いません……これだよ。(*' ▽')ノ」
「同じだろ。それでまあ来るんなら、玄関で待たしとくのも悪いし」
「この寒空の下ひとりお米担いで帰ってくるリカちんに悪いと思わないのかっ!ごめんよリカちん……」
「翠、こっちも」
「うー……。まあ、今回は認めてあげる。甲斐性ポイント一点進呈」
「素直に非を認めろって、大体なぁ、翠はなにかにつけ俺がロクデナシのような方向に持って……」
「甲斐性ポイント二点!」
「なんで、これでどーだ、みたいな顔してんだよ」
「三点……?」
「そんなん誰が……五点で商品券?」
「十点」
「ドーンと一万円なら本気出す」
「いいよ?よーし、ポイントカード作ってあげる。ただし全権審査委員長あたし。九点で評価基準急転、みたいな」
「理香子帰ってこねーな」
「……そうだね」
「米袋に潰されてんじゃねーかな」
「そうだね」
「やっぱ一緒に行きゃあ良かったな……。あいつ筋肉付いちまう」
「そうだね。……最近ふたり、仲良いよね」
「痩せてるし別にいいのか付いても。……ふたりって」
「リカちんと桜井だよ。昔はあんなにつーんってしてたのにさ」
「あいつ、ちょっと人見知りしてただけだぞ」
「違うよ桜井の方。一年生の夏頃なんてもう切れたナイフって感じだったのに」
「それは役に立つのか微妙なラインだな……」
「確かにリカちんもつーんとはしてたけどね。一生懸命話しかけてもてんで無視ーって感じで……。あたしも苦労したなあ」
「お前最高に楽しそうだったぞ」
「違います。体育でペア組むの拒否されたり、おべんと一緒に食べるの拒否されたり、そう、ヤツにはお粥を飲まされた……」
「煮え湯な。親切じゃん、看病されてるじゃん」
「そんなリカちんが今や放課後、桜井と手繋いで帰り出しそうな雰囲気だし。こないだなんかリカちん下駄箱前で30分も待ってたんだよ。桜井がお説教されてるあいだ。あたしにはちょっと用事あるとか言ったくせにさ。桜井の汚い外靴いじったりしてなんで30分も時間潰せるわけ。何なんだねキミたち……。不自然だよ。明らかに不自然」
「帰る場所同じなんだし。別々に帰るほうが不自然だろ」
「それはどうかなぁ。だってそれなら三人で帰ったっていいハズなのにさ。桜井とばっかり一緒にいるもん。おおリカちん、あたしたちの友情はそんなポテトチップのように薄っぺらいものだったの……?」
「ポテチ馬鹿にすんなよ」
「楽しそうに肩なんか並べて歩いちゃってさ。どーせ、宗介今日の晩御飯何食べたいとか訊いちゃって。そんなのうああ、お前が食べたいに決まってるじゃん……。なんという、なんという贅沢か。それで一緒にお買い物に行くのかっ。手を繋っ、いやいや早い。それはまだ早い。でも並んで歩いてたら車を避けた拍子なんかに……メリーゴーランドが回りだし……そんなことが実際に……?並んで歩くからいけない。そうだよ。一列縦隊で帰りなさい」
「ぱりぱり……」
「しかもうしろ姿ならお似合いに見えなくもない……とも言えないこともない所がなーんかムカツク、とう!くそぉー……」
「ん!いきなり目を突くな、目を」
「これは税。あとうらみつらみと衝動」
「税?」
「有名税ね。最近クラスでも、もっぱらの噂だから。何があったのかな、雨降って地固まりすぎだよね。雨降って地コンクリだよあの二人……って」
「さっきから何だよ。別に普通だろ」
「フツー?……ハハン。なんかね、なーんかいやらしいよね、そう言うの」
「おい」
「見えるよ、垣間見える。勝者の余裕が……。このぉ、来月からシフト表に工作してやるっ、リカちんと同伴出勤してやる……どーだ!くやしいか!」
「もう理香子の教育期間終わったんだろ。こないだ(研修)が取れた〜って名札見せてきたぞ」
「うう、仲良くしくさって……」
「その後、翠に感謝している的なことも言ってた」
「もう一回」
「理香子が翠に感謝してる的なことをだな」
「なな、な……もう一回」
「だから翠には感謝している、って」
「リカちん……!!」
「ただいま」
「おお、呼んだら帰ってきた」
「宗介、荷物運んで……ひやっ!」
「リカちん……!!信じてたよ!!愛してるーー!!」
「うわ……」
「うわ……」
暗転