エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談その8』

夏ノ雨 翠ss『雑談その8』
説明:共通ルート。
居間でぼんやりする翠ちゃんと宗介



「翠、なんか近い」

「そうかな」

「もうちょい向こう行けよ」

「ん」

「もっと」

「ん」

「おい……」

「んー」

「……このソファ買ったときな、店員が言ってたんだ。『お母様、お父様、お兄様、お嬢様。四人並んでもゆったりとおくつろぎいただけます』。母ちゃんは笑った。『じゃあ少し大きすぎるわね。うちは母子家庭だから』。店員は黙った」

「…………」

「あの時の母ちゃんは実に楽しそうだった。店員は急な仕事を思い出した」

「ハラスメントだ」

「つまりな、このソファは四人掛けだ。翠、絶対近い」

「なに、嫌なの」

「嫌だろ。なんで自分ちで膝ぴっちりくっ付けてなきゃいけねーんだよ。狭いよ。右サイドのスペースなんだよ。秋口のムクドリかお前は」

「コタツってまだ出さないの?」

「ああ……寒いのな」

「桜井、鈍い」

「言えよ。暖房つけろって一言じゃねーか」

「なぞなぞ形式の方が場が暖まるかなと」

「手震えてんぞ……。尻に敷いとけ、尻に」

「そうする」



「翠……。やっぱ近くねーか」

「そうかな」

「もう暖まったろ」

「うん」

「狭いって」

「たまにはこういうのも」

「コタツどこしまったかな……」

「こら。どこにも行かない」

「なんだよ。なに、本格的に冷えてんの?布団持ってくるか」

「ううん。特に寒くない。ね、目瞑って」

「はあ?」

「ちょっと目閉じてみて」

「つまり毛布はいらない?」

「そうだよ。別に寒いわけじゃないの。ありがと。第三ヒント、目閉じてみて」

「なんのヒントだよ」

「なぞなぞ」

「さっき終わったろ、それは」

「駄目だなぁ……。桜井、それじゃモテないよ」

「うるせえよ」

「ほら、目瞑って。あ、ほんとに瞑った。モテたいんだ」

「お前なぁ……」

「ああん、ごめん、ごめん」

「趣旨が解らねーんだけど」

「まあ大人しく言うとおりにしてみてよ。感覚を研ぎ澄まして。どう。いつもと違うところない」

「いや、特に」

「研ぎも澄ましてもないからだよ。そうだね、息を吸うときはバラの匂いを嗅ぐように……水平線の上に走らすみたく息を吐き……とうとうとした川の流れを感じて……」

「……あれか、催眠術か」

「違います。ほら、ゆっくり深呼吸して……」

「なんか眠くなってきた」

「寝ない。桜井、感じて。心の眼で見て。なにか気付かない」

「いや、特に」

「また深呼吸して……」

「なんだよ、コレ」

「深呼吸」

「おう……」

「何も感じない?」

「おう」

「じゃあもぉ、最終ヒント。桜井にはがっかりだよ。これ正解しても不正解ね」

「もう帰れよお前」

「一回息止めて。じっとして、吐いて、また吸って……はい。いま、何の匂いがしたでしょう」

「……翠の匂い?」

「おお!」

「なに、合ってんの」

「それで!それは?どのような」

「翠ってなんか婆ちゃんちのニオイすんだよな」

「不合格っ!」



「ブルーベリー・オードトイレ?」

バーバリー・オードトワレ。知ってたけどホント駄目駄目だね。知ってたけど」

「要は香水だろ」

「わかってるんじゃん。何故トイレと読んだ」

「いや、トイレって書いてあんじゃん。TOILETTE。トイレット?」

「トワレです。あとお婆ちゃんちのニオイじゃないから。いい、桜井。バーバーリーのトワレは古来から恋の始まりの香りと譬えられ……」

「違う、違う。あれはいつもの翠がってこと」

「なっ……あたし、いつもの?」

「そう」

「だん、あた、そんなことないっ!断じてお婆ちゃんちのニオイはしない!」

「いや、それがするんだって」

「え、なんだよぉ、それ……」

「感想」

「なんだよぉ……」

「テンション下がるなよ」

「えええ……、どういうこと……」

「でもあれだ。今はほら、恋の始まりの香りだから」

「嘘でしょ。お婆ちゃんちのニオイって言った。そうですよ。ごめんね、分かんないよね香水付けてるなんて。すいませんね、お婆ちゃん臭が強すぎて……」

「特に善良な婆ちゃんだぞ。毎日川に洗濯に行く」

「そんなデータは要らない」

「初恋の人はお爺さん。得意料理はキビ団子だ」

「やめてよ。あたしのニオイを具体的にしないで」

「良い匂いの部類に入ると思うけど」

「ていうかね、香水。こっちだから。気付きなさいよ!って話」

「言われてみるといつもと違うような気がする」

「褒めろとは言わないけどさぁ、あたしのワクワクを返して欲しいよね」

「ただの香水だろ」

「いやいや。匂いが違えば気持ちも違ってくるでしょ。今朝家を出た時なんか、運命の予感がしたもん」

「ふーん」

「今桜井どうでもいいって思った」

「いや、いいんじゃねーの。運命」

「夢見てんなよとかせめて1人で見てろとか思ったでしょ」

「違う。翠の幸せを天に祈ってた」

「同じじゃん」

「これ、瓶開けていいのか」

「どーぞ」

「おお、柑橘系」

「あたしからも同じ匂いがしてるハズなんだけどなぁ」

「朝つけたんだからもう飛んでんだよ。そりゃ分かんねーよ」

「放課後にもう一回付けました」

「……最近買ったのか」

「そうだよ。おとといね。リカちんと一緒に買いに行ったの」

「あいつ香水なんて買ってきてたかな」

「買ってあたしにくれたんだよ。誕生日プレゼントで」

「ああ、そういう……」

「ありがとうリカちん!愛だね、これは」

「こういうのって高いんだろ?」

「値段じゃないんだって。忘れずにプレゼントをくれるという心遣いがね。まだ先だけど考えとかないと。リカちんにはなにあげよっかな」

「いいよな。そういうギブアンドテイクの関係」

「英語にするな。一気に打算っぽくなった」

「翠、誕生日いつだっけ」

「だからおととい」

「う。それは……おめでとう、ございました?」

「いーよ別に。桜井に何か貰おうなんて思ってないから」

「助かる」

「一応気持ちは貰っておきたいけどね」

「おめでとう、おめでとう」

「あたしは覚えてるよ、桜井の誕生日」

「へえ」

「あーっ!言わないほうがよかった……。サプライズが消えちゃったなぁ」

「……なんかくれんの」

「そうだねぇ。欲しいものある?」

「特にねーな……。いや、スパイクとか欲しいけど。モレリア2のオーダーメイド版。足型採って工場に送るやつ」

「ふむ」

「ただ値段が」

「おいくら?」

「ちょっと言えない……」

「お金はいいけどさぁ、靴ってプレゼントっぽくないよね」

「なんかアレ買わせるのは悪い」

「そーだ!マフラー編んであげよっか」

「ミサンガ?」

「マフラー」

「翠、編めんの?」

「そう。あのね、あたし編み物始めたんだよ。最近。そしたらやっぱ定番でしょ、初級編として。桜井もう持ってたっけ?」

「一枚も無い」

「うんうん、いいじゃん。出来は保証しかねるけど。ビミョウだったら雑巾かなんかに使ってくれればいいし」

「翠が編み物なぁ」

「変かな?」

「変とは言わないけど、不思議な感じ。もっと女の子女の子した女の子の趣味だと思ってた」

「あー、それはそうだよ。だってあたしのね、始めた理由がそれだもん。編み物してる自分に酔いたいというか。ユザワヤで毛糸玉選んでる時、ああ女の子してるなぁ今、って悦に入ってるからね。なんかすごい楽しいの」

「いんじゃねーの。形からでも」

「これでウチに暖炉があったら完璧だよね。暖炉、揺り椅子、毛糸玉。金の編み棒、膝に猫、そして宮沢翠」

「最後だけ浮いてる」

「いーんだよ!そうだ、色のリクエストとかある?」

「なんでもいい。余ってるのでいい」

「駄目だよちゃんと決めてくれないと。これでまたユザワヤ行けるんだから」

「おい……」

「あの茶色い紙袋提げて電車に乗ってる間はもう、至福の時間だね。周りの視線にそうです、あたしが編むんです!みたいな」

「特殊すぎる」

「いいもの編めるよう頑張るよ!」

「おう……」

「本当にマフラーで良い?手袋とかそれ以外の方が良い?」

「いや、マフラーでいいけど」

「でもそれで女の子寄って来なくなったりしたら悪いなぁ……。今と変わらないか」

「うん?」

「手編みのマフラーって重いじゃん。ていうか呪いじゃん。彼女がいるって勘違いされるよ」

「そこまで考えるかぁ?」

「いやいや。あると思うな。桜井のわずかな希望を消すようなものだよ。そうなると文字通り、マフラーが首を絞めてるわけで」

「いいや。別に彼女欲しくないし。マフラー欲しい」

「えー……強がりだ」

「違う」

「彼女欲しくないんだ。それはおかしい。ホモだ」

「飛びすぎ。今すぐは、ってこと」

「今すぐっていつくらいまで」

「さあ」

「あたしなんか今すぐ彼氏欲しいって思うけど」

「そうか?そんな感じしねーけどな。付き合いたい奴いるのか」

「えー、誰とかいうのは特に……。そうだね。具体的には考えたくないが都合の良い彼氏がほしい!」

「あれだろ。イケメンで、翠にだけ優しくて、悲しい過去を抱えてる」

「そうそう」

「俺と変わんねーじゃん」

「桜井はいつになったら彼女欲しくなるの?」

「さあ……そうな、翠の後でいいかな」

「ふうん」

「なんか疲れそうだし」

「楽しいと思うけど」

「今みたいにぼっとしてんのが楽だろ。うん、翠の後でいい」

「……それ絶対?」

「翠の後って?」

「そう」

「どうだろ」

「絶対?」

「絶対ではないが、ほぼ」

「それ約束したことにならない」

「ほぼ約束しよう」

「だからそれは約束してない」


暗転