エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談その8』
夏ノ雨 翠ss『雑談その8』
説明:共通ルート。
居間でぼんやりする翠ちゃんと宗介
「翠、なんか近い」
「そうかな」
「もうちょい向こう行けよ」
「もっと」
「おい……」
「んー」
「……このソファ買ったときな、店員が言ってたんだ。『お母様、お父様、お兄様、お嬢様。四人並んでもゆったりとおくつろぎいただけます』。母ちゃんは笑った。『じゃあ少し大きすぎるわね。うちは母子家庭だから』。店員は黙った」
「…………」
「あの時の母ちゃんは実に楽しそうだった。店員は急な仕事を思い出した」
「ハラスメントだ」
「つまりな、このソファは四人掛けだ。翠、絶対近い」
「なに、嫌なの」
「嫌だろ。なんで自分ちで膝ぴっちりくっ付けてなきゃいけねーんだよ。狭いよ。右サイドのスペースなんだよ。秋口のムクドリかお前は」
「コタツってまだ出さないの?」
「ああ……寒いのな」
「桜井、鈍い」
「言えよ。暖房つけろって一言じゃねーか」
「なぞなぞ形式の方が場が暖まるかなと」
「手震えてんぞ……。尻に敷いとけ、尻に」
「そうする」
*
「翠……。やっぱ近くねーか」
「そうかな」
「もう暖まったろ」
「うん」
「狭いって」
「たまにはこういうのも」
「コタツどこしまったかな……」
「こら。どこにも行かない」
「なんだよ。なに、本格的に冷えてんの?布団持ってくるか」
「ううん。特に寒くない。ね、目瞑って」
「はあ?」
「ちょっと目閉じてみて」
「つまり毛布はいらない?」
「そうだよ。別に寒いわけじゃないの。ありがと。第三ヒント、目閉じてみて」
「なんのヒントだよ」
「なぞなぞ」
「さっき終わったろ、それは」
「駄目だなぁ……。桜井、それじゃモテないよ」
「うるせえよ」
「ほら、目瞑って。あ、ほんとに瞑った。モテたいんだ」
「お前なぁ……」
「ああん、ごめん、ごめん」
「趣旨が解らねーんだけど」
「まあ大人しく言うとおりにしてみてよ。感覚を研ぎ澄まして。どう。いつもと違うところない」
「いや、特に」
「研ぎも澄ましてもないからだよ。そうだね、息を吸うときはバラの匂いを嗅ぐように……水平線の上に走らすみたく息を吐き……とうとうとした川の流れを感じて……」
「……あれか、催眠術か」
「違います。ほら、ゆっくり深呼吸して……」
「なんか眠くなってきた」
「寝ない。桜井、感じて。心の眼で見て。なにか気付かない」
「いや、特に」
「また深呼吸して……」
「なんだよ、コレ」
「深呼吸」
「おう……」
「何も感じない?」
「おう」
「じゃあもぉ、最終ヒント。桜井にはがっかりだよ。これ正解しても不正解ね」
「もう帰れよお前」
「一回息止めて。じっとして、吐いて、また吸って……はい。いま、何の匂いがしたでしょう」
「……翠の匂い?」
「おお!」
「なに、合ってんの」
「それで!それは?どのような」
「翠ってなんか婆ちゃんちのニオイすんだよな」
「不合格っ!」
*
「ブルーベリー・オードトイレ?」
「バーバリー・オードトワレ。知ってたけどホント駄目駄目だね。知ってたけど」
「要は香水だろ」
「わかってるんじゃん。何故トイレと読んだ」
「いや、トイレって書いてあんじゃん。TOILETTE。トイレット?」
「トワレです。あとお婆ちゃんちのニオイじゃないから。いい、桜井。バーバーリーのトワレは古来から恋の始まりの香りと譬えられ……」
「違う、違う。あれはいつもの翠がってこと」
「なっ……あたし、いつもの?」
「そう」
「だん、あた、そんなことないっ!断じてお婆ちゃんちのニオイはしない!」
「いや、それがするんだって」
「え、なんだよぉ、それ……」
「感想」
「なんだよぉ……」
「テンション下がるなよ」
「えええ……、どういうこと……」
「でもあれだ。今はほら、恋の始まりの香りだから」
「嘘でしょ。お婆ちゃんちのニオイって言った。そうですよ。ごめんね、分かんないよね香水付けてるなんて。すいませんね、お婆ちゃん臭が強すぎて……」
「特に善良な婆ちゃんだぞ。毎日川に洗濯に行く」
「そんなデータは要らない」
「初恋の人はお爺さん。得意料理はキビ団子だ」
「やめてよ。あたしのニオイを具体的にしないで」
「良い匂いの部類に入ると思うけど」
「ていうかね、香水。こっちだから。気付きなさいよ!って話」
「言われてみるといつもと違うような気がする」
「褒めろとは言わないけどさぁ、あたしのワクワクを返して欲しいよね」
「ただの香水だろ」
「いやいや。匂いが違えば気持ちも違ってくるでしょ。今朝家を出た時なんか、運命の予感がしたもん」
「ふーん」
「今桜井どうでもいいって思った」
「いや、いいんじゃねーの。運命」
「夢見てんなよとかせめて1人で見てろとか思ったでしょ」
「違う。翠の幸せを天に祈ってた」
「同じじゃん」
「これ、瓶開けていいのか」
「どーぞ」
「おお、柑橘系」
「あたしからも同じ匂いがしてるハズなんだけどなぁ」
「朝つけたんだからもう飛んでんだよ。そりゃ分かんねーよ」
「放課後にもう一回付けました」
「……最近買ったのか」
「そうだよ。おとといね。リカちんと一緒に買いに行ったの」
「あいつ香水なんて買ってきてたかな」
「買ってあたしにくれたんだよ。誕生日プレゼントで」
「ああ、そういう……」
「ありがとうリカちん!愛だね、これは」
「こういうのって高いんだろ?」
「値段じゃないんだって。忘れずにプレゼントをくれるという心遣いがね。まだ先だけど考えとかないと。リカちんにはなにあげよっかな」
「いいよな。そういうギブアンドテイクの関係」
「英語にするな。一気に打算っぽくなった」
「翠、誕生日いつだっけ」
「だからおととい」
「う。それは……おめでとう、ございました?」
「いーよ別に。桜井に何か貰おうなんて思ってないから」
「助かる」
「一応気持ちは貰っておきたいけどね」
「おめでとう、おめでとう」
「あたしは覚えてるよ、桜井の誕生日」
「へえ」
「あーっ!言わないほうがよかった……。サプライズが消えちゃったなぁ」
「……なんかくれんの」
「そうだねぇ。欲しいものある?」
「特にねーな……。いや、スパイクとか欲しいけど。モレリア2のオーダーメイド版。足型採って工場に送るやつ」
「ふむ」
「ただ値段が」
「おいくら?」
「ちょっと言えない……」
「お金はいいけどさぁ、靴ってプレゼントっぽくないよね」
「なんかアレ買わせるのは悪い」
「そーだ!マフラー編んであげよっか」
「ミサンガ?」
「マフラー」
「翠、編めんの?」
「そう。あのね、あたし編み物始めたんだよ。最近。そしたらやっぱ定番でしょ、初級編として。桜井もう持ってたっけ?」
「一枚も無い」
「うんうん、いいじゃん。出来は保証しかねるけど。ビミョウだったら雑巾かなんかに使ってくれればいいし」
「翠が編み物なぁ」
「変かな?」
「変とは言わないけど、不思議な感じ。もっと女の子女の子した女の子の趣味だと思ってた」
「あー、それはそうだよ。だってあたしのね、始めた理由がそれだもん。編み物してる自分に酔いたいというか。ユザワヤで毛糸玉選んでる時、ああ女の子してるなぁ今、って悦に入ってるからね。なんかすごい楽しいの」
「いんじゃねーの。形からでも」
「これでウチに暖炉があったら完璧だよね。暖炉、揺り椅子、毛糸玉。金の編み棒、膝に猫、そして宮沢翠」
「最後だけ浮いてる」
「いーんだよ!そうだ、色のリクエストとかある?」
「なんでもいい。余ってるのでいい」
「駄目だよちゃんと決めてくれないと。これでまたユザワヤ行けるんだから」
「おい……」
「あの茶色い紙袋提げて電車に乗ってる間はもう、至福の時間だね。周りの視線にそうです、あたしが編むんです!みたいな」
「特殊すぎる」
「いいもの編めるよう頑張るよ!」
「おう……」
「本当にマフラーで良い?手袋とかそれ以外の方が良い?」
「いや、マフラーでいいけど」
「でもそれで女の子寄って来なくなったりしたら悪いなぁ……。今と変わらないか」
「うん?」
「手編みのマフラーって重いじゃん。ていうか呪いじゃん。彼女がいるって勘違いされるよ」
「そこまで考えるかぁ?」
「いやいや。あると思うな。桜井のわずかな希望を消すようなものだよ。そうなると文字通り、マフラーが首を絞めてるわけで」
「いいや。別に彼女欲しくないし。マフラー欲しい」
「えー……強がりだ」
「違う」
「彼女欲しくないんだ。それはおかしい。ホモだ」
「飛びすぎ。今すぐは、ってこと」
「今すぐっていつくらいまで」
「さあ」
「あたしなんか今すぐ彼氏欲しいって思うけど」
「そうか?そんな感じしねーけどな。付き合いたい奴いるのか」
「えー、誰とかいうのは特に……。そうだね。具体的には考えたくないが都合の良い彼氏がほしい!」
「あれだろ。イケメンで、翠にだけ優しくて、悲しい過去を抱えてる」
「そうそう」
「俺と変わんねーじゃん」
「桜井はいつになったら彼女欲しくなるの?」
「さあ……そうな、翠の後でいいかな」
「ふうん」
「なんか疲れそうだし」
「楽しいと思うけど」
「今みたいにぼっとしてんのが楽だろ。うん、翠の後でいい」
「……それ絶対?」
「翠の後って?」
「そう」
「どうだろ」
「絶対?」
「絶対ではないが、ほぼ」
「それ約束したことにならない」
「ほぼ約束しよう」
「だからそれは約束してない」
暗転