エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談その9』
夏ノ雨 翠ss『雑談その9』
説明:共通ルート。
理香子の奇癖
「地下鉄って乗る時なんだかどきどきするよね」
「そうかぁ?」
「ほら、地上から階段下りてくと風ぶわー!ゴゴゴゴゴ!ってなるじゃん」
「なるな」
「ね!」
「は?」
「でしょ!」
「おう」
「だよねぇ。なんでだろうね」
「いや、話進めるなよ。まだドキリともしてない」
「あれ」
「ゴゴゴゴゴまでは分かるけど」
「えー……。じゃあなんて言うのか、異界に降りてく感じ?あたしの中の魔が踊りだすよね」
「それは分かんない」
「そっかなぁ……。結構ときめくと思うんだけど」
「地下鉄だったらやっぱ降りるときの方がドキドキするだろ」
「ふうん?逆なんだ」
「あれはいいものだ」
「開放感?」
「メッカだし。階段上るとき風ぶわー!ってなるんだよな……」
「あたしもう桜井の前歩かない!」
「翠のは見ないって」
「嘘だね」
「いーや。見ようとして本当に見えちまったらどうする。その後気まずいぞ。母ちゃんと親父の馴れ初め聞いた時の気持ちになるぞ。見えなかったら見えなかったで今度はなんか負けた感じになるし。ほらみろ。結局、翠のスカートは見ないのが一番いい」
「やめてよ。理詰めで説かないでよ」
「じゃあ、単純に惹かれない。翠の脚にはロマンが無い」
「失敬だなぁ……」
「自分で言わせたんだろーが」
「失礼な話だよ。あたしの脚はスレンダー極まりないというのに。ほら」
「……もうやめよう。この話」
「なんで?」
「面と向かって話すようなことじゃないだろ」
「別にいいと思うけど。ロマンが無いなら無いでさ。むかつく」
「ちょっと言いすぎた」
*
「なーんか桜井さぁ、やたら熱入ってなかった?」
「なにが」
「あたしのスカートを覗かない理由。生々しいというか。経験談というか」
「そうでもない」
「なにかね、もしかして……」
「違う」
「違うんだ?」
「違う」
「ふーん。……じゃあリカちん?」
「うっ」
「あーっ!リカちんのスカート覗いたんだっ」
「バカ!声でかい!」
「リカちん〜!」
「ちょっ、なんでもない。今日の晩飯なに。何の匂い。カレー?シチュー?いいじゃん。期待してる。悪いな邪魔して。ホント何でもない」
「リカちん〜!」
「やめろ!こら、やめてください」
「やめろぉ?」
「おやめください」
「へんたい」
「翠が何を想像してるか知らないけどな。そのような事実は無いんだ。理香子、大丈夫、違う。ホント何でもないから」
「…………」
「ふう……」
「桜井。あのさぁ。リカちんは家族でしょ?」
「事実無根だって」
「家族のことそーいう目で見るのはどうかなぁ」
「俺のことそういう目で見ないでくれ」
「だって、ねえ……」
「だってじゃねーから」
「……まあ相手がリカちんだもんね。しょうがない。うん、元気出して。気持ちは解るよ」
「やめろよ。急に優しくなるのやめろ」
「でもそんなだと一緒に暮らすの大変じゃない?一つ屋根の下。寝巻き姿のリカちんだよ?お風呂上りのリカちん。トイレから出てくるリカちん。朝寝癖の付いたリカちん。今だって見てよ、制服の上にエプロンだなんて……!」
「もう慣れた」
「とりあえず、そういうことにしといてあげよう」
「理香子ってどっかズレてるからな。そういう対象にはなんねーの」
「いやいや。ストライクど真ん中でしょ?」
「高めのボール球」
「守備範囲には入っている」
「守備についた覚えがない」
「嘘つき」
「いや。だってこないだなんかだぞ。俺帰ってきたら理香子がここ座ってプリンを皿にプッチンしてるわけ。それで皿持ち上げて『震度2〜震度3〜ふふっ』とか言ってニヤニヤしてんだぞ。怖えよ」
「むふ……ちょっとそれは……」
「それとな、先週の日曜日、シャコって海老なの?虫なの?で一日悩んでた」
「リカちん……」
「まだあるぞ。いつだったか、鎌倉の旅行番組やってたのな。俺と二人で見てたんだよ。紫芋ソフト食いてえなぁとか言って。おみやげ通りをタレントが歩いてくわけ。修学旅行かなんか知らないけど、中学生が天誅!とか書いてある木刀に群がってたりしてさ」
「あー、あるね。なんで買っちゃうんだろうね。絶対埃被るっていうか、特に使い途無いのに」
「それだよ。したら理香子がいきなり『核ミサイルよ!』とか言い出して」
「は……?」
「なんか1人で興奮しだしたんだ」
「どゆこと?」
「なんかな、『いい、宗介。中学生が競って木刀を買うのはね、防御本能の表れなのよ!』『その日の宿で絶対に戦いになるのよ!消灯と同時にゴングが鳴るの。敵は木刀を構えてるのよ。枕じゃあ負けは明らかでしょ!』とかなんとか言って、抑止力!とか間違いないわ!とか1人で頷いてんの」
「琴線に触れたんだね」
「そこ盛り上がるとこか?って感じじゃん。ちょっと付いてけない」
「ニューロンが繋がったんだよ」
「それでな。まあ、嬉しそうにしてるし、水差すのも悪いだろ?流れで、じゃあ最初の1人はなんで買うのかって訊いたんだよ」
「うん」
「そしたら、『だから核ミサイルよ!!』って。勝ち誇って」
「ううん……」
「謎だろ」
「謎だね……」
「それからな、他には」
「まだあるんだ」
「今みたく飯作ってる時にさ。よく鼻歌歌ってんだけどその歌詞がな、肉を切らせて骨が折れる〜とか食べやめたらそこでごちそうさま〜とか猫ってすごいなで肩〜とか」
「シュールだ」
「他にも唐揚げにレモンかけるとき断らない奴と唐揚げにレモンかけるとき断らないと怒り出す奴どっちが鬱陶しいかで悩んでたり」
「う、うん……」
「あとあいつスゲー方向音痴な。あの勘は驚異的だぞ。初めて通る道で必ず迷う。一度来た道はもっと迷う」
「それただの悪口じゃないかなぁ……」
「事実なんだって。これ昨日の話だけど、理香子納豆嫌いなんだよ。ひな姉が買ってきたやつが冷蔵庫に残っててな、」
「宗介〜!ご飯出来たわよ!手洗っ……こら、走らない」
「素早い……」
「翠はどうする?食べてくの」
「え。あたしの分あるのっ!」
「シチューだからいくらでも。食べるならお茶碗出してきて」
「リカちんが神様に見える」
「拝んでいいわよ」
「理香子!飯は?」
「座って待ってて。お箸出して」
「おう」
「翠、運ぶの手伝って」
「うん」
「食べたいだけよそって。宗介のどんぶり、魚の骨描いてあるやつね。先持っていってあげて。はぁ〜、疲れたっ……」
「……主婦だねぇ、リカちん」
「どこが」
「疲れた肩の叩き方とか?」
「そんなとこ見てないでよ」
「むっ、奥様、そちらは」
「サラダ。朝作っておいたやつ」
「おお……」
「理香子、メシまだか〜?」
「まったく、いいご身分で。はい、はい」
「おお……」
「ハラ減った〜」
「ちょっと待ってなさい。宗介、ご飯これ多い?ちょっと減らす?」
「リカちん……」
「なによ翠、呆けて」
「……完全介護だ」
「餌やりよ」
「かき給へ、かき給へよ……みたいな」
「何言ってるの」
「理香子〜」
「はい、はい。お待たせ。宗介の好きなポテトサラダよ。シチューもすぐ来るから、先食べてて」
「なんで床に置くんだ」
暗転