エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談13』

夏ノ雨 翠ss『雑談13』
説明:共通ルート。
節分だったので。翠ちゃんの居ぬ間に



「理香子。ちょっといいか」

「なに?」

「訊きたいことがあんだけど」

「なんでそんな声小さいのよ」

「も少しこっち寄れ」

「偉そう。イラッとする」

「寄ってください」

「面倒くさい」

「じゃ、いいや」

「そう」

「…………(お茶をすする)」

「…………(お茶をすする)」

「…………(栗まんじゅう食べる)」

「…………(栗まんじゅう食べる)」

「…………(口元をぬぐう)」

「…………(ティッシュを渡す)」

「…………(口元をぬぐう)」

「…………(ティッシュを受け取る)」

「最近日が長くなってきたな」

「そうね」

「でもまだ夜は肌寒い。空気は澄んでいて、星は綺麗だけど、外に出るのには少し勇気がいる。芝は枯れ野良猫は姿を見せず、学校のレモン石鹸は乾いて粉をふいている。そんな冬の日だ。春は未だ遠い。去年見たツバメは今頃フィリピンや台湾の地を発っただろうか。そうしてまたこの町へ向かい始めただろうか……」

「そうね」

「……そろそろいいか?」

「面倒くさい」
「あのな。ちょっと聞いて欲しいことがあって。個人的な話で、理香子にとっちゃどうでもいいことかもしれないんだけど」

「耳、くすぐったい」

「なんつーか、翠のことなんだけど」

「はあ」

「真面目にきいてくれ」

「わかってる、わかってる」

「言いにくいんだけどな。つまり、最近、あいつのことが気になっていて」

「うん」

「今日もそう。朝起きてからずっと翠のことばっか考えてて」

「う、うん?」

「他のことが入ってこないんだ。ちょっと気を抜いたらすぐ顔が浮かんじまうんだ。目を閉じると笑いかけてくる。話しかけてくる。頭の中でぐるぐる回ってる」

「翠が……?」

「翠が。なんなんだこれは。自分でもどうしてこうなったのかわからないんだけど。一度気になりだすとずっとそうで、落ち着かないというか、なんというか。もやもやして。まともに顔が見れない。名前を聞くと反応しちまう。飯食ってたらいつの間にかあいつのこと考えてるし、風呂につかるとまたあいつの顔が浮かんでくる。口癖、ふくれっつら、リボンの黄色、首の日焼け痕。ガキっぽい趣味、色ペンばっか入った筆箱、ごてごてしたケータイ、必ずえり立てて着たがるジャージ、雨の日のちょっとふくらんだ髪、目薬さすのにびびって引けてる腰、割り箸を慎重に二つにしてるときの瞳、跳ねるような歩き方、額に張りついた髪をのける仕草、くだらないこと思いついたときの目の光りかた、口角の上がりかた、カナブンに付きまとわれて全力ダッシュする顔の必死さ、手相に詳しいことを隠したがる思考回路、うまいもの食ったとき出す猫みたいな声、バニラアイスに文句つけてる時の口ぶり(ちょっとキミ。最近溶けるの早いんじゃない?)、切りそろえた爪、小づくりな耳、白い二の腕、斜めにすり減った靴のかかと、夏の寄り道、全然出てこないコンビニ……。なまじ一緒にいるだけ思い出すこと多くて。あの時はどうだった。この時はこうだった、恥ずかしい話だけど。夜も眠れない有様で」

「み、翠で?」

「翠で」

「いつから?」

「どうだろう。確か、先週の火曜の昼休み」

「やだ、具体的……」

「それ以来、翠のことが頭から離れなくて。苦しいんだ。考えても答えが出なくて。自分が二人に分かれちまったみたいで」

「…………(お茶をすする)」

「…………(お茶をすする)」

「…………(むせる)」

「それでな。俺も男だし。この際あいつに、思いの丈をぶつけたい。見ているだけじゃ満足できない。触れたい。肌で確かめたい。奥まで知りたい。自分のものにしたい。この思い、もう抑えるのは限界だ」

「静かに!声大きいわよ……!翠に聞こえちゃうじゃない、もっと。もっとこっち来て喋りなさい」

「すまん」

「そ、それで?私に何を訊きたいの?早くしなさいよ、なにお茶飲んでるのよ翠、戻ってきちゃうわよ。それで?」

「ええっと」

「ていうか、そもそも。なんで私に話してるのよ。こういうのは、宗介と、あの子の。ふたりのことじゃないの。そうでしょう?」

「そりゃ本当は、直接打ち明けるのが筋なんだろうけど。でもな。そしたらあいつ、翠は、どう思うかわからない。こっちが勝手に、踏み込もうとしてるんだ。もしかしたら……不快に思うかもしれない」

「不安なんだ?」

「どうだろう。そうかもしれない。だからこうして、理香子に話しているのかも」

「そう……」

「お前ら仲いいだろ。お互いきっと、いろんなこと知ってるはずだ。それに女どうしだしなにか、感じるようなところがあるんじゃないかと、だから。つまり、出来ることなら、先に確かめておいた方がいいんじゃないかと……。理香子なら、答えを知ってるかもしれない」

「し、知らないわよ」

「一応。一応聞いてくれ」

「いいけど……」

「あのな」

「うん……」

「翠のかばんっていつもパンパンじゃねえ?」



「謎すぎんだけど。アレ何詰まってんのマジで」

「それはねえ、私が思うに宗介、喧嘩売ってる?」

「真面目に」

「意味わからないんだけど?いろいろ入ってるに決まってるでしょう?馬鹿じゃないんだから。馬鹿なの?なに考えてるの?宗介の頭ってポン菓子かなにかで満たされてるわけ?大丈夫?寝てるあいだに脳味噌のシワというシワに接着剤流し込まれたんじゃないの?」

「なるほど、いろいろか。色々って具体的には?例えば?色ペンの他に?布系?何用?非生物?精密機器?不定形?柔らかい系?」

「うわ、ああん、もう、なんなわけ、そのノリ……」

「気になって眠れないんだよ。何が詰まってんだ?そもそも、なぜああも満杯のパンパンにしておく必要が?」

「知らないわよ……」

「リカちんー!桜井ー!林檎むけたよ〜。じゃーん!ほらっ、うさぎさん、うさぎさん」


暗転