エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談13』

夏ノ雨 翠ss『雑談13』
説明:共通ルート。
節分だったので。翠ちゃんの居ぬ間に



「理香子。ちょっといいか」

「なに?」

「訊きたいことがあんだけど」

「なんでそんな声小さいのよ」

「も少しこっち寄れ」

「偉そう。イラッとする」

「寄ってください」

「面倒くさい」

「じゃ、いいや」

「そう」

「…………(お茶をすする)」

「…………(お茶をすする)」

「…………(栗まんじゅう食べる)」

「…………(栗まんじゅう食べる)」

「…………(口元をぬぐう)」

「…………(ティッシュを渡す)」

「…………(口元をぬぐう)」

「…………(ティッシュを受け取る)」

「最近日が長くなってきたな」

「そうね」

「でもまだ夜は肌寒い。空気は澄んでいて、星は綺麗だけど、外に出るのには少し勇気がいる。芝は枯れ野良猫は姿を見せず、学校のレモン石鹸は乾いて粉をふいている。そんな冬の日だ。春は未だ遠い。去年見たツバメは今頃フィリピンや台湾の地を発っただろうか。そうしてまたこの町へ向かい始めただろうか……」

「そうね」

「……そろそろいいか?」

「面倒くさい」

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エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談その12』

夏ノ雨 翠ss『雑談その12』
説明:共通ルート。
人生なんてゲームみたいなもの(宮沢翠、談)



「そーだねぇ。一年おきに四人で、上から男の子男の子女の子男の子で」

「四人か」

「駄目かな?」

「産みすぎじゃねーの」

「いやいや。子だくさん。幸せ家族」

「男三人ってのもどうだろ」

「いいじゃん」

「暴れるぞ?家が動物園みたいになる」

「それはちょっと困る」

「男女2-2でよくないか」

「うーん。でもね、三兄弟+振り回される妹って構図は譲れないんだよ。長男がノンフレームの眼鏡でね、次男が……あ、三人目誕生。ご祝儀ちょーだい」

「またかよ……」

「ご祝儀ちょーだい」

「お前ぽんぽん産むな?節操ねーな。そういう夫婦が勢いで離婚すんだよ」

「違います。古来から子は鎹と申しまして、子供が夫婦の絆となってね」

「分かった、分かった」

「じゃこの子、女の子ね」

「ピンだけどな。プラスチックの」

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エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談11』

夏ノ雨 翠ss『雑談11』
説明:共通ルート。
翠先生の特にいけなくない個人レッスン



「キコシメッス」

「そ。それ埋めて読むとどうなるかな」

「えー……、かやうに立ち泊りたまふ折々あれば、はかなき菓物、強飯ばかりはキコシメス時もあり」

「惜しい。つよめしじゃない。それこはいひね」

「はかなき菓物、コワイイばかりはキコシメス時もあり」

「文の主語は?」

「それは……あれだよ。敬語なんだろ。だから偉い人」

「誰よ、偉い人。お忍びでデートしてるんだから今、二人しかいないよ?光源氏か明石の君か。どっちが偉いの」

「ええ……?つまりだ。つまり、どっちかっつーと……見方によって違うわけで、決め付けちゃうと悪いわけで、要は、一概には言えないけど、ある意味……」

「…………」

「……源氏?」

「いけるじゃん!!」

「よっしゃ」

「ついでに訳してみよう」

「それは無理」

「無理かぁ……」

「キコシメッスが食うなんだろ。だから、コワイイ食ってるのは解る。あれか?アルファ米的なやつか」

「うん、そうそう、それで十分だよ。今はね、キコシメスだけちゃんと覚えとくんだよ」

「キてるな。今、スゲー降りて来てる」

「ううん。実はそんなには来てない」

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エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談その10』

夏ノ雨 翠ss『雑談その10』
説明:共通ルート。雑談その9の五分後。
理香子式弁証法



「納豆ぉ……?あんな腐ったもの食べてるから人間性根が腐るのよ」

「いやいや。発酵食品なんて沢山あるじゃん。リカちんもヤクルト飲んだりするでしょ?」

「飲まない」

「チーズは」

「食べない」

「徹底している……」

「これで分かった?」

「あのね。食べ物なら何にでも菌がついていて、たんぱく質レベルで見ればどれも発酵しているんだけど」

「そのねちねちした理屈が出てくる頭が納豆並みに腐ってるって言ってるの」

「うえーん、桜井〜〜!」

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エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談その9』

夏ノ雨 翠ss『雑談その9』
説明:共通ルート。
理香子の奇癖



「地下鉄って乗る時なんだかどきどきするよね」

「そうかぁ?」

「ほら、地上から階段下りてくと風ぶわー!ゴゴゴゴゴ!ってなるじゃん」

「なるな」

「ね!」

「は?」

「でしょ!」

「おう」

「だよねぇ。なんでだろうね」

「いや、話進めるなよ。まだドキリともしてない」

「あれ」

「ゴゴゴゴゴまでは分かるけど」

「えー……。じゃあなんて言うのか、異界に降りてく感じ?あたしの中の魔が踊りだすよね」

「それは分かんない」

「そっかなぁ……。結構ときめくと思うんだけど」

「地下鉄だったらやっぱ降りるときの方がドキドキするだろ」

「ふうん?逆なんだ」

「あれはいいものだ」

「開放感?」

「メッカだし。階段上るとき風ぶわー!ってなるんだよな……」

「あたしもう桜井の前歩かない!」

「翠のは見ないって」

「嘘だね」

「いーや。見ようとして本当に見えちまったらどうする。その後気まずいぞ。母ちゃんと親父の馴れ初め聞いた時の気持ちになるぞ。見えなかったら見えなかったで今度はなんか負けた感じになるし。ほらみろ。結局、翠のスカートは見ないのが一番いい」

「やめてよ。理詰めで説かないでよ」

「じゃあ、単純に惹かれない。翠の脚にはロマンが無い」

「失敬だなぁ……」

「自分で言わせたんだろーが」

「失礼な話だよ。あたしの脚はスレンダー極まりないというのに。ほら」

「……もうやめよう。この話」

「なんで?」

「面と向かって話すようなことじゃないだろ」

「別にいいと思うけど。ロマンが無いなら無いでさ。むかつく」

「ちょっと言いすぎた」

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エロゲー 夏ノ雨 翠ss『雑談その8』

夏ノ雨 翠ss『雑談その8』
説明:共通ルート。
居間でぼんやりする翠ちゃんと宗介



「翠、なんか近い」

「そうかな」

「もうちょい向こう行けよ」

「ん」

「もっと」

「ん」

「おい……」

「んー」

「……このソファ買ったときな、店員が言ってたんだ。『お母様、お父様、お兄様、お嬢様。四人並んでもゆったりとおくつろぎいただけます』。母ちゃんは笑った。『じゃあ少し大きすぎるわね。うちは母子家庭だから』。店員は黙った」

「…………」

「あの時の母ちゃんは実に楽しそうだった。店員は急な仕事を思い出した」

「ハラスメントだ」

「つまりな、このソファは四人掛けだ。翠、絶対近い」

「なに、嫌なの」

「嫌だろ。なんで自分ちで膝ぴっちりくっ付けてなきゃいけねーんだよ。狭いよ。右サイドのスペースなんだよ。秋口のムクドリかお前は」

「コタツってまだ出さないの?」

「ああ……寒いのな」

「桜井、鈍い」

「言えよ。暖房つけろって一言じゃねーか」

「なぞなぞ形式の方が場が暖まるかなと」

「手震えてんぞ……。尻に敷いとけ、尻に」

「そうする」

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エロゲー 夏ノ雨 ひなこss『三頭会談』

夏ノ雨 ひなこss『三頭会談』
説明:共通ルート。
宗介の受難



○桜井家・ダイニング


早朝。カーテンに白い手が伸びる。勢いよく大開きに。まっすぐ差し込む陽光。快晴。
キジバトの鳴き声。電柱の上でさえずるひよどり。
トントンと軽快な包丁の音。
まな板の上、束になったニラが刻まれていく。一定のペースで刃に吸い込まれていく。
小口切りにされたニラ、包丁の腹ですくわれる。そのままフライパンへ。じゅう、と水が弾ける。
卵が二つステンレスのボウルに割り落とされる。軽く身体側へ傾けられるボウル。菜箸が卵白を切るように掻き混ぜる。くまちゃん柄のエプロン。熊は右目をつぶってピースサイン
エプロン姿の女、一つまみ塩を振る。フライパンを返す。ニラには薄茶色の焦げ目がついている。薄く白煙が上がる。思い出したように換気扇のスイッチへ伸びる人差し指。
火が通りしんなりしたニラを溶き卵のボウルに落とす。塩コショウを振り手早くかき混ぜる。
フライパンにボウルの中身を半分ほど落とす。火を弱める。
卵を薄焼きにし、端から巻いていき、奥に寄せる。残りの半分もパンに流し込む。ボウルに張り付いているニラを指でつまみ、ぴっと投げ入れる。
隣のコンロでは味噌汁鍋がコトコト蓋を持ち上げ始める。
…………。
窓越しに朝の気配。慌しく家を出るサラリーマン、集配のバイク、少し高くなった太陽。白い日差しがフローリングに反射する。ダイニングはやや明るさを増している。
コンロの火を落とし理香子、うむ、と頷く。
ドアの開く音。
のしのし誰かの近づいてくる気配。理香子、そわそわと、
「おはよう……」
テーブルには湯気を立てる玉子焼き、味噌汁、伏せられたご飯茶碗、味海苔、ハム。
「そ、宗介、おはよう……!」
宗介、パジャマ姿で現れる。猫背がちにズボンの裾を踏んで歩いてくる。
ダイニングの入り口で立ち止まる宗介。重たげに目蓋を持ち上げる。理香子の方に顔を向けるが、目は合わせない。すぐに来たほうへ引き返していく。
「宗介……」
後姿を追う理香子。
バタン!と扉が強く閉められる。トイレの明かりが灯っている。
「…………」
理香子、頭を垂れ、キッチンへ引き返す。

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